世界食べ尽くしの旅 Españoleando

スペイン在住のフードライターが、素敵な人達に出会いながら、世界中を遊んで食べ尽くすの記録

スペインの世界遺産 エルチェの宗教劇「ミステリ」

      2017/09/25

スペインのエルチェで演じられる宗教劇「ミステリ」はユネスコの世界遺産に登録されています。ミステリは世界で一番入手が困難なチケットと呼ばれているんです。運よくチケットが入手出来たので、ミステリに潜入取材してきました。宗教の、とても長い話なので読み物としては退屈かもしれません。でも門外不出とまで言われる宗教劇の全貌となるので、知りたい人がいるかどうか分かりませんがとても貴重な資料です。と言う訳でここにそっとUPしておきます。

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何故スペインのエルチェで開催される宗教劇、ミステリが門外不出と呼ばれるのか

2001年5月18日、エルチェの街に再び大きな喜びが訪れました。 この街の大聖堂で演じられる宗教劇のミステリがユネスコの世界遺産に指定されたからです。なぜ再び? それは2000年の歴史を超える200万平方メートルの椰子園が前年の11月に世界遺産として認定されたばかりだからです。

これによってバルセロナ、サンティアゴ・デ・コンポステーラについでこの小さな街、エルチェが2つの世界遺産を抱える街となりました。ミステリはチケットが入手困難な事で大変有名です。人気が高く、それでいて舞台が教会なので収容人数が少ないからです。ユネスコの世界遺産に登録されて、更にチケットの入手が困難になりました。

運よくチケットが手に入ったので、エルチェの街に宗教劇ミステリを取材して来ました。ミステリの大きな特徴は舞台が街の大聖堂の中に造られている事。世界で唯一、本物の教会内で演じられる宗教劇、それがエルチェの「ミステリ」です。

今まで数限りなく教会を見たきたけれど、コレだけめいっぱいの人で埋もれた教会を見るのは初めてです。なんせ床が見えない。2階のバルコニーからは今にも人がこぼれ落ちそうで怖い怖い。

 

エルチェの宗教劇、ミステリの全貌を徹底解説

まだまだ真夏の太陽が容赦ない午後6時、大聖堂のパイプオルガンが荘厳な音楽を奏でると、聖母マリアがお供にマリア・サロメとマリア・ヤコブ、そして6人の天使達を引き連れて主扉に現れます。 中央に立つのは見目麗しき美少年が演ずる聖母マリア。

白いチュニカに青いマント、頭には黄金に輝く冠を載せています。両脇にはマリア・サロメとマリア・ヤコブ。聖母と全く同じ衣装ですが頭に載せた髪飾りに各自の名前が彫られているので見分けがつきます。

後ろに控えるのはベール持ちの4人の天使、そして赤いビロードのクッションを持った2人の天使。聖母マリアを筆頭に、この一団は変声期前の小さな男の子達で構成されています。日本の歌舞伎と同じで、中世の宗教劇の世界では女性の参加が許されていなかったからです。

一団が登場すると人熱で茹だる大聖堂内に拍手とざわめきが湧きあがりました。そしてそれを一瞬にして凍らせる聖母マリアの美しい歌が始まります。

「私の姉妹たちよ。今日この日、私の最大の願いを聞いておくれ。私を愛しているのなら、どうか見捨てないでおくれ。」

2人のマリア達は聖母の願いを聞き、答えの歌を返します。

「乙女よ、神の母である人よ。貴方が望むところに 私達はお供致します。」

花道を少し進むと、聖母は膝を落として再び歌い始めます。

「有体の人生のなんと悲しきことよ。この世のなんと残酷で不平等なことよ。悲しみにくれる私は何をしたらよいの? 私の最愛の息子には何時会えるの?」

主扉から大聖堂内に造られた舞台までを繋ぐ長い花道で、聖母は3回膝をつき歌います。これによって観客達にキリストの受難を想起させる何とも上手い演出です。

第1の詩はキリストがユダの裏切りで捕らえられるちょっと前に苦悩して祈ったとされるオリーブ山麓の園、ゲッセマネに捧げる歌です。第2の詩はキリスト磔刑の地カルバリオに捧げる歌。そして第3の詩はエルサレムにあるキリストの聖墳墓に捧げられます。

「聖なるゲッセマネの園よ、ここであの方は捕らわれの身となった。残酷な仕打ちを受けて、ここであの方は死去なされた。イスラエルの主に抗って。」

「聖なる木よ、尊厳なる名誉よ、大いなるものよ。ここであの方は血を流された。この世界を救おうとして。」

「徳高き聖墳墓よ、 威厳高きものよ。天と地を創造されたあの方は、あなたの内におられた。あなたの内で休息なされた。」

第三の詩が終わると一行は舞台に登ります。 聖母は舞台左側に造られた白い布に覆われた寝台の上に膝まづき、天使達はその寝台の周りを取り囲みます。そして聖母は再びここで彼女のゆるぎない願い、最愛の息子との合流を願って歌います。

「愛しの息子への愛に溢れる、私のうちに訪れた大きな願い。あんまりにも大きくて口に出す事が出来ない。だからいっそ死んでしまいたい。」

再びパイプオルガンが鳴り響きます。更には大聖堂の鐘が連打され、爆竹の重低音までズジズシと腹に染み込みます。すると天の扉が開いてNUVOLと呼ばれる柘榴の形をした赤い装置が降りてきます。蕾がパッと開くと中はまっ金きんで、小さな男の子の天使が黄金に輝く棕櫚の枝を握り立っています。

天上から小さく刻んだ金色の紙を降らし、それが金の雨となって聖母の上に舞い落ちます。天使はイエス・キリストが母の願いを聞き入れたことを告げる詩を歌いながら降りてきます。

「神は帝国の乙女を、天上の王の母を救うでしょう。我は貴方に言伝と救済を、あなたの全能の息子に託されてやってきた。愛してやまない貴方の息子は貴方を祝福するために 大きな愛をもって待っています。神はきっかり三日目に、天上の世界で貴方を天使の女王と命名します。神は私にこの棕櫚の枝を託しました。そして貴方の埋葬をこの枝で導けと仰られました。」

Deu vos salve Verge imperial, Mare del Rei celestial, jo us port saluts e salvamet del vostre Fill omnipotent. Lo vostre Fill qui tant amau e ab gran goig lo desitjau, Ell vos espera ab gran amor

per ensalcar-vos en honor.E diu que al terc jorn, sens dubtar, Ell ab si us vol apel.lar alt en lo Regne Celestial per Regina angelical. E mana’m que us la portas aquesta palma i us la donas, que us la facau davant portar quan vos porten a soterrar.

この金ピカ装置が舞台に降りると、聖母のお供の天使達が駆け寄り、くくりつけられた天使を解き放ちます。

自由になった天使は寝台の上の聖母の前に膝まづき、棕櫚の枝をそっと口と額にくっつけた後、それを聖母に捧げます。聖母も天使と同じように口と額でふれた後、その棕櫚の枝を受け取ります。そして新たな願いを、死ぬ前に懐かしい使徒たちに会いたいと歌います。

「まばゆき喜びの天使よ。もし許されるのならもう1つお願いがあるの。どうかそれを拒まないで。もしも願いが叶うなら、死んでしまう前に使徒たちに会いたい。彼等に埋葬してもらいたい。」

お使いの天使は元いた装置に戻り、再びしっかりと縛り付けられます。 そして聖母の願いは叶えられたと歌いながら天の扉へと登ってゆきます。

「使徒たちは全員瞬く間にやってくるだろう。神は全能であるから、彼等は一瞬のうちに連れてこられるだろう。聖母が望まれるのなら、永遠なる神は使徒たちが今すぐにでもここに居る事を、貴方の慰めとなる事を喜ばれるだろう。」

天使は再び天へと帰っていきます。パイプオルガン、鐘、爆竹、あらゆる音が喜びを表して鳴り響きます。 聖母のお供達は、聖母の前で恭しく膝まづき挨拶した後、舞台右側に作られた各々の椅子席に付きます。

2人の紳士が立ちあがり、花道を渡って外に出ます。今ではシンボルでしかない彼等はその昔、俳優の出番を告げる呼び出し係りとして機能していました。大聖堂近くの聖セバスティアン教会で準備している役者達を呼びに行ったのです。

そして一人の男が主扉に現れます。清浄のシンボルである白いチュニカに身を包み、左手には古い羊皮紙の本を抱えています。本は彼自身の福音書を象徴しているので聖ヨハネです。

何か抗えない大きな力によって突然ココへ連れて来られたヨハネは戸惑い、暫くの間花道をウロウロしますが、聖母を発見すると駆け足で駆け寄り彼女を抱きしめます。そしてこの予期せぬ再会を喜び詩を歌います。

出演者は全てエルチェの街の住民です。ミステリは昔から村人による村人の為の宗教劇なんです。プロではない普通の人達なのですが厳しいオーディションがあるので、皆さんオペラ歌手顔負けの素晴らしい歌声を披露します。

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「栄光と救いが最上の母である貴方にあるように。雷のように力強き主が、貴方に慰めを与えますように。」

聖母は息子の愛弟子であった聖ヨハネに自分の死が近い事を告げ、黄金の棕櫚の枝を託します。

「友であり息子であるヨハネよ。真の神の息子が貴方に力を与えるように、貴方の到来で私の心は喜びに溢れています。ヨハネよ、息子よ、この棕櫚の枝を受け取っておくれ。 そして私を埋葬するとき掲げておくれ。」

口と額に棕櫚の枝をあててからそれを受け取ったヨハネは、物思いに耽った顔つきで悲しみの詩を歌います。

「有体の人生の何と悲しきことよ。この世の何と残酷で不平等なことよ。悲しみにくれる私はどこにいこう。ちっぽけな私は何をしよう。」

「乙女よ、帝国の女王よ、天上の王の母よ、何故にこんな傷みを我等に与えるのか。この世に主人も君臨者ももたなくなるとは。」

聖ヨハネは舞台の入り口まで行き、大聖堂の主扉を見つめならがら仲間の使徒たちを呼ぶ詩を歌います。

「使徒たちよ、我が兄弟よ、ここへ来なさい。そして悲しみの声で泣こう。今日この日我等は全ての徳を失うのだ。我等の信仰する輝かしき統治者を。」

聖ヨハネは再び聖母にむかって、悲しみと困惑を歌います。

「貴方なしで我等はどうしましょう。誰に慰めをえましょう。我等が生きてる、息がある間は目と心で泣かねばならないでしょう。」

この詩が終わらぬうちに主扉には黄金の鍵を持った男、イエス・キリストが天上の鍵を渡したとされる聖ペトロが現れます。重要な人物ですから聖ペトロを演ずるのは必ず聖職者でなければなりません。

聖ペトロは聖ヨハネと同様キツネにつままれた様子でキョロキョロ辺りを見まわしています。しかし一度寝台の上の聖母を認めると駆け寄り彼女の肩に手を置き挨拶をします。そして聖ヨハネと抱き合い再会を喜んだ後で聖母に向って歌い出します。

「慎ましき乙女よ、栄光の華よ、我等の統治者の母よ、全能の神の栄光と救済が貴方にありますように。」

すると他の6人の使徒たちが主扉に現れ、夢でも見ているかのように辺りを見まわしながら舞台に近づいて行きます。聖母に気がつくと駆け寄り、恭しく膝まづき挨拶を交わします。それから聖ペトロ、聖ヨハネと抱き合い、悠久の時を超えて再び巡り会えた喜びを表します。

この6人の使徒のうちの一人は、この神秘劇の音楽を統治する指揮者です。使徒を装うことによって観客の目から隠れつつ彼等の合唱を間近で指揮することができます。

ここで前半のハイライトとなるTERNARIと呼ばれるシーンがはじまります。大聖堂後方の3つの扉、つまり主扉と両横にある聖Agatangelo扉、聖 Resurreccion扉から入場する3人の使徒が花道中央で出会い、素晴らしい合唱がはじまるのです。

一人は巡礼の旅人のような服装で、フードにはホタテ貝がくっついています。背中に帽子を吊り下げ、瓢箪の水筒を吊るした杖を手にしていることから聖ヤコブかと思われます。3人は聖母マリアの周りに集結した懐かしき使徒たちを目にすると、この奇跡を目の当たりにした驚きを歌います。

「尊き力の何という偉大さよ。主よ、全ての創造者よ、なんと偉大な奇跡をおこされたのか。ここに、この場所に全ての使徒が集結するとは。なんと不思議なことよ 我等は瞬く間にやって来た。丘を超え山を越え 我等は一瞬の内にここへ連れてこられた。なんという喜びよ、我等は瞬く間にここへ連れてこられた。この奇跡は確かなもの。ここに、この場所に全ての使徒が集結するとは。」

Oh, poder de l’ Alt Imperi, Senyor de tots los creats ! Cert es aquest gran misteri ser aci tots ajustats. De les parts d’aci estranyes som venguts molt prestament, passant viles i muntanyes en menys temps d’un moment. Ab gran goig, sens improperi, som aci en breu portats. Cert es aquest gran misteri ser aci tots ajustats. De les parts d’aci estranyes som venguts molt prestament, passant viles i muntanyes en menys temps d’un moment

歌い終わった3人の使徒たちは舞台に進み、他の使徒たちと同様聖母マリア、聖ペトロ、聖ヨハネと挨拶を交わします。こうして全ての使徒たちが聖母マリアの寝台の周りに集まります。

あ、一人足りませんね。 疑い深い聖トーマスが。でもとりあえず天使のお告げ通りに使徒たちが聖母の元に集まりました。使徒たちは膝をつきバレンシア方言とラテン語で書かれた詩を歌います。

「女王よ、王女よ 天使らの母よ、天使らを従える人よ、罪人の弁護人よ、受難者を慰める人よ。全能なる神は、貴方の息子は我等にこの奇跡を授けてくださった。我等を慰めるために貴方に会わせてくださった。我等の罪を被られた人よ、罪人の弁護人よ、受難者の慰め人よ。」

この聖母を称える詩は聖ヨハネを除いた全ての使徒たちが膝を落として終わります。聖なる黄金の棕櫚の枝を手にした聖ヨハネは劇中常に立ち続ける唯一の人物です。

そして聖ペトロが再び立ちあがり聖母に向って歌います。

「価値高き神よ、この会合は何を意味するのでしょうか。何かの神秘が隠され、それを我等に見つけさせようとなさるのか。」

聖ペトロが再び膝まづくとマリア・サロメとマリア・ヤコブ、そしてお供の天使達が各自の席を離れ、聖母のいる寝台のベッドボードに並びます。 聖母は自身の死の前触れを象徴する火のついた大きな蝋燭を天使から受け取ります。そして悲しみにくれた声で最後の審判が行われると予言されるヨシャファト(主の裁きの)谷へ埋葬してくれるよう訴えます。

「親愛なる息子達よ、主は汝らを連れてこられた。我が身を汝らにゆだねる。ヨシャファトの谷へ埋葬しておくれ。」

詩が終わると同時に聖母は寝台の上に倒れます。全ての登場人物は驚き、聖母に救いの手を差し延べます。しかしこれは演技上の演出で実際は一生懸命ある仕掛けを観客の目から隠しているんですね。上手いことやるもんで2階席からしかその仕掛けは見えません。

聖母の倒れた寝台は滑り台となって、死去された生身のマリア様はスルっと舞台の中に吸収されます。そして入れ替わりにエルチェの街の守護神である聖母マリアの横臥像が寝台の上に置かれます。

コダワリの演出は横臥像に目を閉じた聖母の仮面をかぶせている事です。 横たわる、今は亡骸となってしまった聖母を前に使徒たちは歌います。その手には灯された蝋燭を各自持っています。

「栄光に包まれた聖体よ、聖なる純粋な乙女よ、今日この日貴方は埋葬される。そして高きところで君臨なさる。」

この詩が終わると同時に天の扉が再び開き、又しても金ぴかの、しかし今度はもっと大型のARACELIと呼ばれる盾型の装置がゆっくりと降りてきます。 盾の中央に立つのは大天使です。その重要性から聖職者が演じ、そしてそれを強調するために司祭の衣に身を包んでいます。

大天使の両脇に左右対称に造られた上段にはギターとハープを弾く大人の天使が、下段にはギターを持ったちびっこ天使が座っています。金の雨を降らしながら聖母被昇天を告げる詩を歌います。

「神の母なる人よ、我等天使に続きなさい。そして天上の王国で王の座につきなさい。休息する貴方に、天と地を創造したあの方が 素晴らしい戴冠をなされることを喜びなさい。使徒たちよ、神の友よ、この聖なる体を受け取りなさい。そして彼女の望むヨシャファトの谷へ運びなさい。」

装置が舞台に着くと、聖母のお供の天使が大天使に白い衣を着た小さな聖母の像を差し出します。この小さな聖母の像は彼女の魂を表し、それを大天使に託すことによって魂が身体から離脱したことを表します。これによって聖母が逝去し魂が天に登ることが視覚的に表される見事な演出です。

金ぴか装置に乗った天使たちが同じ詩を歌いながら天へ帰ると第一部が終了します。大聖堂の主席司祭と神父達が寝台の上の聖母の像の足にキスをし、使徒たちと天使たちもそれに習って敬意を表した後で舞台を後にします。

最後に残った聖ヨハネは聖母の足にキスした後、彼女の胸に黄金の棕櫚の枝を置き退場します。 ここで第一部は終了。劇の続きは翌日の8月15日に演じられます。

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