スペインのタパスとは何なのか? タパスは何処で食べるのか?スペインのタパスについて
2019/05/08
スペイン料理を語るのに欠かせないのがタパスの存在。飲み物を注文すると無料でついてくる食べ物、もしくは有料の小皿料理がタパス。スペイン在住18年目のフードライターが世界中を食べ尽くすの記録。今回はスペインの食文化を象徴するタパス、そしてスペインそのものも学べる場所、バル(BAR)についても解説。
スペインのタパスの歴史・由来・語源
タパスの歴史はとても古く、諸説が幾つもあります。
アルフォンソ13世(在位1886-1931 年)がスペイン南部の街、カディスを訪れた時、休憩したメゾンのテラス(VENTORRILLO ・DEL ・CHATO という名で現存)で一杯のシェリー酒を頼みました。カディスの街は風が強い事で有名です。気を利かした給仕がワインのグラスに砂が入らないよう、生ハムで蓋をしてサーブしました。それを痛く気に入ったアルフォンソ13世が、2杯目も同じようにするよう命じた、との説。
軍事面では成果をあげられなかったけれど、文化、行政面で大きな功績を残し、後に「賢王」と呼ばれるようになったアルフォンソ10世(在位 1252-1284年)の説も有名です。タパスとは賢王が貧乏な酒飲み達が空きっ腹でワインを飲む事を防止する為に生まれた、との説です。ワインを必ず何かの食べ物と共にサーブする事で、悪酔いを防ぐだけでなく、防犯の効果があったと言われています。
レコンキスタの拠点となったアストゥリアス王国( 718-914年)では、ワインには必ず豚肉を使用した生ハムやソーセージ類を付けてサーブするよう命じたとされます。共に食卓を囲んだ同士が不浄な生き物として豚肉を食べなかったイスラム教徒で無い事を確認し合う為です。
語源からシンプルにタパス(TAPAS) が動詞TAPAR (覆う)の活用から成り、グラスを覆ったリ、空腹を TAPAR (覆う)ために存在する食べ物だから、とも言われています。いずれにせよスペインのタパス(TAPAS)の歴史は古く、昔からスペイン人に慣れ親しんだ習慣です。
スペインのタパスとはどのようにして食べるのか?
スペインのレストランやカフェバーで一杯のビールを頼むと、タパス(TAPAS)と呼ばれる無料の付き出しが付きます。オリーブの実だったり、生ハムが乗った小さなトーストだったり。タパスで有名な北部や南部へ行けば、小皿にこんもりと魚フライや肉料理などがつき、2杯もビールを飲めばお腹一杯になってしまいます。
残念ながら都会ではそこまで太っ腹なタパスにお目にかかる事は稀です。マドリッドのオシャレ系のバーならタパスが付かない場所も多いし、何か無料でついたとしてもピーナッツやポテトチップスだけだったり。バルセロナだったら全く何もつきません。
タパスには食べる(COMER )と言う動詞をスペイン人は使いません。鳥がクチバシでつっつく、を意味する PICARを使います。胃袋の小さい日本人にとっては結構な量ですが、スペイン人にしてみればあくまでもアペリティフ、本格的な食事の前に食欲を増進させるためだけのものです。
通常スペイン人は食事前にカウンターで1~2杯ひっかけ、タパスをつまみ、それから着席して本格的な食事をします。ただタパス文化が盛んな地方ではメイン料理を食べずにタパスだけですませてしまう人も多いです。
スペインのバル(BAR) はスペインの食文化の一部
スペインの有名な歌手、ホアキン・サビーナは「アントン・マルティン(マドリッドの地下鉄駅)界隈だけでノルウェー全土よりも多くの バー(BAR)がある」と歌いました。全くもってその通りでスペインにはやたらめったらBARがあります。ちなみにBARはスペン語だとバーではなくバルと読みます。
バーと言っても日本のような、綺麗なお姉さん達がいる薄暗い場所を想像してはいけません。カウンターとテーブル席が数個置かれた、子供からお年寄りまでが共存する空間、それがスペインの バー、バルです。
スペイン人にとってBAR は生活の一部。一日に何度でも立ち寄る場所。田舎に住むお年寄りなどは一日の大半をバルで過ごしています。
テレビのサッカー中継に一喜一憂してる人、一人黙々と新聞を読む老紳士、ドミノで遊ぶおじいさん達、まったりした若者達の輪、買い物帰りの奥様群の笑い声、ざわめきの間に聞こえるスロットマシーンの音、椅子の下で眠る犬、その犬にちょっかい出す子供達、人が通る度に移動されるベビーカー。
スペインとは何か、そしてスペイン人とは何かを知りたかったら絶対バルへ立ち寄るべきです。バルにはスペインの全てが凝縮されているのですから。
バルはスペイン人観察にもってこいの場所。スペイン料理を知るためにも絶対訪れたい場所。スペイン料理はレストランなんかで食べるよりバルで食べた方がより深くスペインを感じる事が出来ます。バルにはイス席もありますが、よりスペインらしい雰囲気を盛り上げたいならカウンターがおすすめ。それにタパスで有名なバルにはイス席が無い場合も多いです。
スペイン人もタパスを食べるのには、 老いも若きも立ち食いが基本。皆でワイワイでもいいけど、一人だってスペインのバルは怖くない。人間観察をしながら、サッカー中継を見ながら、グラス片手にタパスを楽しんで下さい。
スペインのタパスは何処で食べる事が出来るのか?
無料で美味しい、それだとアンダルシア地方。特にグラナダやアルメニアが有名です。大学があり学生の街として栄えている場所、特にカスティージャ・イ・レオン地方は腹持ちのいい大き目サイズのタパスが食べられる事で有名です。気前の良さで言えば北部のガリシア地方も凄いです。
スペインと言えばタパス。でもスペインを訪れたら絶対タパスを食べられる、という訳ではありません。タパスを食べない地方、無料のタパスが付かず別会計な地方、色々とあるので注意が必要です。例えばアンダルシア地方はタパスで有名ですが、その拠点となるセビリアの街は別会計になるバルが殆んどです。
星の数ほどあるスペインのバルで、美味しいタパスを食べられるのは何処か。それは皆様が実際に色々試してみるのが一番です。スペインでははしご酒が基本。一杯辺りの単価も安いので、安心して食べ比べしてみて下さい。
ところでスペインでは爪楊枝、オリーブの種、ナプキン、何でもかんでも床に投げ捨てるタイプのバルが未だに残っています。かつてはタバコも店内で吸えたので、吸い殻なんかも床に捨てていました。最初は何てお行儀の悪い国だろう、なんて思ったりもしましたが、床が汚ければ汚い程美味しいバルだと評価されていました。分煙も進み、今では床にポイ捨てするバーは少なくなりましたが、頑なにそのスタイルを守る場所は美味しい所が多いです。