新海誠監督の作品は、圧倒的な映像美と「光」の描写で、世代を超えた多くの人々を魅了し続けています。初期の名作『秒速5センチメートル』の実写版公開を経て、新海アニメの聖地巡礼は単なるアニメ好きだけのイベントではなく、日本の風景美を再発見する文化的な旅として定着しました。今回は、新海ワールドをより深く味わうための、聖地巡礼ガイドをお届けします。
『君の名は。』:記憶の断片を辿る旅
洗練された都会の象徴「国立新美術館」

Wiiii, CC BY-SA 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0>, via Wikimedia Commons
主人公・瀧が、憧れの奥寺先輩とデートで訪れたのが、六本木にある「国立新美術館」です。黒川紀章設計による波打つようなガラスの壁面は、それ自体がアート作品のようです。
【見逃せないポイント】
劇中で二人がランチをしたのは、カフェ「サロン・ド・テ・ロンド」です。宙に浮いているような不思議な感覚でティータイムを楽しめます。美術鑑賞の後に、瀧の緊張感を感じながらサンドイッチを頬張ってみてはいかがでしょうか。
★ここだけのグルメ 美術館周辺は日本屈指のガストロノミーが集まるエリアです。六本木の隠れ家的なお店で、江戸前寿司やモダンフレンチを堪能するのも大人な聖地巡礼の醍醐味ですね。
東京の空にそびえるランドマーク「ドコモタワー」

Basile Morin, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons
『君の名は。』のカット割りで、東京の象徴として何度も登場するのが、代々木にある「NTTドコモ代々木ビル(ドコモタワー)」です。この建物は、実は『言の葉の庭』や『天気の子』にも登場しており、新海ワールドにおける東京の「不変のランドマーク」としての役割を果たしています。
【トリビア】 エンパイア・ステート・ビルを彷彿とさせるデザインですが、内部の多くは通信機器の設置スペースとなっており、一般向けの展望台はありません。信濃町駅付近から眺めるその姿は、作品の情緒を最も感じさせるアングルです。
遥かなる記憶を呼び起こす「前田南駅」

Marho, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons
ヒロイン・三葉が暮らす糸守町の駅のモデルの一つと言われているのが、秋田内陸縦貫鉄道の「前田南駅」です。無人駅ならではの静寂と、豊かな緑の中に赤い列車が映える風景は、映画のワンシーンそのものです。
【2026年最新情報】
秋田内陸線では、アニメファンに向けた特別列車の運行や駅名標の整備が進み、今や国内外から観光客が訪れる人気スポットとなりました。周辺の田園風景は、日本の原風景とも言える美しさです。
★ここだけのグルメ
秋田といえば「きりたんぽ」ですが、このエリアでは「バター餅」が有名です。元々はマタギの保存食として作られていたもので、甘くて柔らかい食感は一度食べると癖になります。
運命が交差する「四谷・須賀神社の階段」

Hisagi, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons
作品のラストシーンで、大人になった瀧と三葉が再会するあの階段です。世界中からファンが訪れる、もはや伝説的な場所となりました。
★ここだけのグルメ
四谷周辺は「たい焼き」の激戦区です。老舗の「わかば」で、薄皮にたっぷり詰まった餡のたい焼きを片手に散策するのが地元流です。
『秒速5センチメートル』:距離と時間の物語
切ない再会を待つ「小山駅」の静寂
栃木県にあるJR両毛線・小山駅は、第一話「桜花抄」で主人公・貴樹がヒロイン・明里に会いに行く途中に立ち寄る重要なスポットです。雪による列車の遅延という絶望的な状況下で、彼がホームのベンチで過ごす時間は、観る者の胸を締め付けました。
2025年秋に公開された実写版『秒速5センチメートル』でも、この小山駅は極めて重要なロケーションとして使用され、再注目されました。
★ここだけのグルメ
小山駅を訪れたら、ぜひ「小山うどん」をご賞味ください。「開運のまち」として知られる栃木県小山市は、良質な小麦の産地です。モチモチとした食感と喉越しの良さは、旅の疲れを癒してくれます。
空と宇宙が繋がる場所「種子島」

ウニウニ, CC BY-SA 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0>, via Wikimedia Commons
物語の第二話「コスモナウト」の舞台は、鹿児島県の種子島です。貴樹が転校し、もう一人のヒロイン・花苗が彼に想いを寄せる切ない青春が描かれました。特に宇宙センターからのロケット打ち上げシーンは、作品屈指の美しさを誇ります。
種子島宇宙センターは、2026年現在も日本の宇宙開発の最前線です。新型ロケット「H3」の運用が本格化しており、運が良ければ劇中のような迫力ある打ち上げを間近で体感できるかもしれません。アニメで描かれたカブに乗る風景は、今も島内に色濃く残っています。
★ここだけのグルメ
種子島といえば「安納芋」です。その甘さは蜜が溢れるほどです。また、近海で獲れる「アサヒガニ」は濃厚な旨味が特徴です。地元の直売所で焼きたての安納芋を頬張るのは至福のひと時ですよ。
『言の葉の庭』:雨音が奏でる都会のオアシス
孤絶した魂が触れ合う「新宿御苑」

Carbonium, CC BY 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by/3.0>, via Wikimedia Commons
雨の日を待ちわびる二人の物語が展開されるのが、新宿御苑です。タカオとユキノが出会う日本庭園の「東屋(あずまや)」や、そこへ至る「太鼓橋」は、アニメとは思えないほどの質感で描写されました。
【知的好奇心をくすぐる話】
新宿御苑は、江戸時代に信州高遠藩主・内藤家の屋敷があった場所です。新海監督は、この歴史ある庭園の植生を徹底的にリサーチし、雨の種類(霧雨、豪雨、通り雨)によって葉の色を変えて描いたといいます。訪れるなら、あえて雨の日を選んでみてください。
★ここだけのグルメ
園内の茶室「楽羽亭」で、季節の上生菓子とお抹茶をいただくのが粋な楽しみ方です。また、新宿エリアはカレーの激戦区。近くの「ガンジー」などの老舗で、スパイシーな欧風カレーを楽しむのもおすすめです。
『天気の子』:光と祈りが交差する都会
雲の上の世界を見守る「東京都庁」
帆高と陽菜たちが「100%の晴れ女」ビジネスをスタートさせた場所として描かれたのが、西新宿にある東京都庁の展望室付近です。陽菜の祈りによって、厚い雲の隙間から光のカーテンが降り注ぐシーンは、新海作品の映像技術の極致と言えます。
【知っておきたい話】
現在、都庁の第一本庁舎壁面を利用した「プロジェクションマッピング」が新たな観光名所となっています。かつて映画の中で光り輝いた都庁が、リアルでも光の芸術で彩られているのは、なんとも不思議な縁を感じさせますね。
お天気の神様を祀る「気象神社(高円寺)」

User:Kentin, CC BY-SA 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0>, via Wikimedia Commons
劇中で陽菜が「晴れますように」と願った下駄の絵馬が印象的でしたが、そのモデルとされているのが高円寺にある「気象神社(氷川神社内)」です。
日本で唯一の「お天気の神様」を祀る神社として知られ、現在は聖地巡礼のファンだけでなく、大事な行事を控えた方々が「快晴祈願」に訪れます。てるてる坊主の形をした可愛らしいお守り「てるてる守」も人気です。
★ここだけのグルメ
高円寺は、安くて美味しい「天ぷら」や「カレー」の名店がひしめく中央線カルチャーの拠点です。「天すけ」でふわふわの玉子天ぷらを味わうのが鉄板コースです。
『すずめの戸締まり』:日常と異界が隣り合う境界線
都会の喧騒と神田川の叙情「JR御茶ノ水駅」

Dudva, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons
『すずめの戸締まり』で、鈴芽が草太を探して、彼の友人・芹澤の車に乗り込む印象的なシーン。その舞台となったのがJR御茶ノ水駅のお茶の水橋口です。神田川を跨ぐ橋と、聖橋(ひじりばし)を背景に地下鉄丸ノ内線が顔を出す風景は、鉄道ファンならずとも心踊ります。
芹澤のオープンカーが停まったあの道路の角度や、聖橋からの眺めは、今も映画そのままの臨場感で楽しめます。
★ここだけのグルメ
御茶ノ水は「カレーの街」神保町に隣接しています。また、周辺の老舗「蕎麦」屋も絶品です。歴史ある建物で、鈴芽たちの旅に思いを馳せながら、こだわりの江戸前蕎麦を啜ってみてはいかがでしょうか。
物語の始まりを感じさせる「旧豊後森機関庫」

kiki_1313, CC BY 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by/4.0>, via Wikimedia Commons
劇中に登場する「廃墟にある後ろ戸」のイメージソースの一つとされるのが、大分県にある「旧豊後森機関庫」です。
扇形の機関庫と転車台が残るこの場所は、かつて蒸気機関車が活躍した時代の遺構。苔むしたコンクリートの質感と差し込む光は、まさに「常世」に繋がっていそうな神秘的な雰囲気を醸し出しています。
★ここだけのグルメ
大分といえば「とり天」です。サクサクの衣にカボスを搾っていただくスタイルは、旅の疲れを爽やかに癒してくれます。
まとめ:進化を続ける新海誠監督の世界へ
2025年秋の『秒速5センチメートル』実写映画公開を経て、ますます人気が高まる新海誠監督作品の聖地巡礼。深海監督が描く風景は、私たちが普段見落としがちな美しさを教えてくれます。あなただけの「物語」を探す旅に出かけてみませんか。
著者プロフィール
ヨーロッパ在住の旅と食のプロガイド
主にスペインに拠点を置いて30年。プロの観光ガイドとして、これまで数多くの日本人旅行者の皆様を世界各地でご案内してきました。また、日本国内ではスペイン語圏からの観光客をお迎えするガイドとしても活動。
ガイド業の傍ら、その土地ならではの「食」と「旅」の魅力を伝えるライターとして、雑誌や専門メディアにて、現地発のリアルな情報を多数掲載しています。「ガイドの視点」と「食へのこだわり」で、皆様の旅がより豊かなものになるよう、最新の情報をお伝えします。


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