日本の夏を彩る祭りは、伝統の継承と現代の演出が融合し、訪れる人々を圧倒するエネルギーに満ち溢れています。今回は訪日観光客ガイドの視点からみた、2026年おすすめの日本の夏祭を紹介します。
【中部地方】静寂と熱狂が交差する伝統美
おわら風の盆(富山県富山市八尾町):哀愁の胡弓が響く、静謐なる夜

さかおり, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, via Wikimedia Commons
9月1日から3日にかけて、富山市八尾(やつお)で開催される「おわら風の盆」。300年の歴史を持つこの祭りは、他の夏祭りとは一線を画す「静」の魅力に満ちています。三味線と胡弓の哀愁漂う旋律に合わせ、編笠を被った踊り子が静かに舞います。毎年20万人以上の観光客を迎える人気の祭です。
おわら風の盆の起源
この祭りは、収穫前の稲を暴風から守るために風神を鎮める「二百十日(にひゃくとおか)」の祈りが起源です。踊り子が顔を隠すのは、照れや恥じらいではなく、かつては神様の前で個人を消すという意味もあったと伝えられています。
【地元グルメ情報:ます寿しと富山湾の宝石】
富山といえば「ます寿し」です。八尾の情緒ある街並みの中でいただくます寿しは格別です。また、富山湾の宝石と呼ばれる「白えび」の刺身やかき揚げも、この時期ならではの贅沢です。
郡上おどり(岐阜県郡上市):日本一長く踊り明かす、不夜城の夏

郡上市観光課, CC BY-SA 3.0 <http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/>, via Wikimedia Commons
7月中旬から9月上旬にかけて、延べ30夜以上にわたり開催される郡上踊り。特に8月13日から16日にかけての4日間は「徹夜おどり」と呼ばれ、夜通し踊り続ける熱狂ぶりが圧巻です。ユネスコ無形文化遺産にも登録されており、その歴史と格式は折り紙付き。
【初心者でも楽しめる輪の秘密】
郡上おどりは「見る天国、踊る極楽」と言われ、誰でも輪の中に入って踊れるのが最大の特徴です。
【地元グルメ情報:郡上鮎の塩焼き】
清流・長良川の恵みを受けた「郡上鮎」は、香りが高く、夏に訪れたなら必ず味わいたい逸品です。また、地元の「奥美濃カレー」も隠れた人気メニューです。
【近畿地方】歴史が息づく圧巻の美
祇園祭(京都府京都市):ユネスコ無形文化遺産、「動く美術館」の威容

Corpse Reviver, CC BY 3.0 https://creativecommons.org/licenses/by/3.0, via Wikimedia Commons
1,100年以上の歴史を誇る京都市八坂神社の祭礼、祇園祭。7月の1か月間を通じて様々な行事が行われますが、クライマックスは7月17日(前祭)と24日(後祭)の「山鉾巡行(やまほこじゅんこう)」です。釘を使わず縄だけで組まれた巨大な山車が京の街を進む姿は、圧巻の一言です。ユネスコの無形文化遺産に登録されています。
【見逃せないポイント:世界を繋ぐ懸装品】
山鉾を彩る懸装品(けそうひん)には、古くからペルシャ織の絨毯やベルギーのタペストリーなど、世界中の逸品が使われており、「動く美術館」と称されています。
【ここでしか味わえない地元のグルメ】
祇園祭は別名「ハモ祭り」とも呼ばれています。この時期の京都では、梅肉でいただく「ハモの落とし」や「ハモ寿司」が旬です。洗練された京の夏の味をぜひ堪能してください。
岸和田だんじり祭(大阪府岸和田市):命を懸けて角を曲がる「やりまわし」の衝撃

Kounosu, CC BY-SA 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0>, via Wikimedia Commons
2026年の開催は9月19日(宵宮)と20日(本宮)に予定されています。約4トンもの重さがある地車(だんじり)が、全力疾走のまま直角に曲がる「やりまわし」は、まさに魂が震える迫力です。
【だんじり彫刻の緻密さ】
だんじりは単なる山車ではありません。随所に施された彫刻には、戦国時代の武勇伝などが刻まれており、一台数億円とも言われています。芸術品としても見る価値があるのです。
【ここでしか味わえない地元のグルメ:関東煮(かんとだき)】
だんじり見物の定番といえば、おでんに似た「関東煮」です。また、甘さ控えめの「くるみ餅」は、激しい祭り見物の後の疲れを癒してくれます。
【中国・四国地方】シンクロと躍動の美
鳥取しゃんしゃん祭(鳥取県鳥取市):ギネスも認めた華麗なる傘踊り

㭍月例祭, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, via Wikimedia Commons
鳥取市で毎年8月中旬(2026年は8月13〜15日予定)に開催される「鳥取しゃんしゃん祭」。約3,000人の踊り子が、鈴の付いた色鮮やかな傘を手に一斉に舞う「一斉傘踊り」は、鳥取の夏の風物詩となっています。
【世界最大の傘踊り】
祭りの名前は、傘を手にしゃんしゃんと鈴の音を鳴らして舞い踊ること、そして温泉が「しゃんしゃん」湧くことに由来しています。2014年には「世界最大の傘踊り」としてギネス世界記録に認定されました。洗練されたシンクロ率の高い踊りが披露されます。
【ここでしか味わえないグルメ】
実は鳥取市はカレーの消費量が日本トップクラスです。地元の梨などを使った「鳥取カレー」は深いコクが特徴です。また、日本一の品質を誇る「砂丘らっきょう」の甘酢漬けは、お土産にも最適です。
阿波踊り(徳島県徳島市):400年の歴史が爆発する「踊る阿呆」の4日間

Ann Lee, CC BY-SA 2.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0, via Wikimedia Commons
毎年8月12日から15日にかけて、徳島市は熱狂の渦に包まれます。「踊る阿呆に見る阿呆」のフレーズで知られる阿波踊りは、400年以上の歴史を誇る日本を代表する伝統芸能です。全国から100万人規模の観光客が訪れ、街中が「連(れん)」と呼ばれる踊り子のグループで埋め尽くされます。
【2つの踊りのスタイル】
阿波踊りには、女性が編笠を深く被り、下駄でしなやかに踊る「女踊り」と、腰を低く落としてダイナミックに舞う「男踊り」があります。その洗練されたフォーメーションは、現代のストリートダンスにも通じる美学があります。
【ここでしか味わえない地元のグルメ】
濃厚な豚骨醤油に生卵を落として食べる「徳島ラーメン」は絶対に食べて下さい。また、地鶏の「阿波尾鶏(あわおどり)」の焼き鳥や唐揚げは、ビールとの相性が抜群です。
【九州地方】光と影が織りなす幻想美
山鹿灯籠まつり(熊本県山鹿市):霧の中から現れる伝説の光

ノブりんご, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, via Wikimedia Commons
熊本県山鹿市で毎年8月15・16日に開催される「山鹿灯籠まつり」。和紙と糊だけで作られた金灯籠を頭に載せた浴衣姿の女性たちが、千人規模で舞う「千人灯籠踊り」は、この世のものとは思えないほど幻想的な風景を作り出します。
【景行天皇のお迎え】
祭りの起源は、その昔、景行天皇が深い霧で進むべき道を見失った際、山鹿の里人たちが松明を掲げてお迎えしたという伝説に基づいています。
【地元グルメ情報:馬刺しと山鹿スイーツ】
熊本といえば「馬刺し」です。新鮮でとろけるような食感は山鹿でも楽しめます。また、山鹿は和菓子の街としても有名で、地元の栗を使ったスイーツは絶品です。
【東北地方】圧倒的な熱量と光の芸術
仙台七夕まつり(宮城県仙台市):政宗公から続く、日本一の優美な笹飾り

Nikm, Public domain, via Wikimedia Commons
毎年8月6日から8日にかけて行われる「仙台七夕まつり」。全国各地で開催される七夕祭りの中でトップクラスの知名度を誇ります。伊達政宗公の時代から続くといわれるこの祭りの主役は、アーケードを埋め尽くす色とりどりの巨大な笹飾りです。地元の人々が数ヶ月かけて手作りするこれらの飾りは、芸術的な完成度を誇ります。
【短冊に託された意味】
仙台七夕には、それぞれ意味を持った「七つの飾り」があります。例えば、短冊は学問成就、折鶴は家内安全・長寿など。これら全てを探しながら歩くのが、大人の七夕の楽しみ方です。
【地元グルメ情報:仙台牛タンとずんだ】
仙台に来たら「牛タン焼き」は欠かせません。分厚くカットされたタンの食感は驚きです。食後のデザートには、枝豆の香りが爽やかな「ずんだ餅」や「ずんだシェイク」がおすすめです。
青森ねぶた祭り(青森県青森市):光の巨獣が躍動する魂の祭典

Marie-Sophie Mejan, CC BY 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0, via Wikimedia Commons
東北三大祭りのひとつ「青森ねぶた祭」。2026年も例年通り、8月2日から7日まで開催されます。高さ約5m、幅約9mという巨大な骨組みに和紙を貼り、内側から灯りを灯した「大型ねぶた」は、まさに光の彫刻です。勇壮な武者絵が夜の街を練り歩く姿は、見る者の魂を大きく揺さぶります。
【ここが見どころ】
特に注目すべきは、最終日の7日夜に行われる「ねぶた海上運行」と花火大会の共演です。ライトアップされた大型ねぶたが青森港を航行する姿は、地上での勇壮さとはまた異なる、幻想的な美しさです。近年はLED技術の進化により、より繊細な色彩表現が可能になっています。
【地元グルメ情報:青森の旬を味わう】
青森市を訪れたら、絶対に外せないのが「のっけ丼」です。青森魚菜センターで、自分の好きな具材を選んで作る海鮮丼は格別の味わいです。夏場は特に「陸奥湾産のホタテ」が甘みを増しており、絶品です。
弘前ねぷたまつり(青森県弘前市):扇に宿る「静」の美学

Kaburamata, CC0, via Wikimedia Commons
「青森ねぶた」が人形型なら、「弘前ねぷた」は扇型の山車が中心です。2026年も8月1日から7日にかけて、城下町の弘前らしい雅で情緒豊かな雰囲気に包まれながら開催されます。鏡絵(正面)の勇壮な武者絵と、送り絵(背面)の妖艶な美人が織りなす対比は、まさに動く芸術品です。
【地元グルメ情報:弘前といえばリンゴ!】
祭りの合間に楽しみたいのが、弘前市内のカフェで提供される多種多様な「アップルパイ」です。また、郷土料理の「いがめんち」(イカの足を叩いて野菜と揚げたもの)は、お酒のつまみに最高です。
五所川原立佞武多(青森県五所川原市):空を突き抜ける23メートルの衝撃

z tanuki, CC BY 3.0 https://creativecommons.org/licenses/by/3.0, via Wikimedia Commons
「ヤッテマレ!ヤッテマレ!」の掛け声と共に、五所川原の街に現れるのは高さ約23m(ビルの約7階分相当)に達する山車です。毎年8月4日から8日にかけて行われ、ビルの合間を巨大な光の塔が抜けていく光景が、他に類を見ない迫力を生み出します。
【五所川原でしか味わえない名産】
五所川原を訪れたら、ぜひ味わっていただきたいのが「つくねいも」です。非常に粘りが強く、祭りの熱気を乗り切るためのエネルギー源として地元で愛され続けています。また、十三湖の「しじみラーメン」は、祭りで疲れた体に染み渡る優しく深い味わいで、観光客にも大人気です。
竿灯まつり(秋田県秋田市):夜空に揺れる巨大な光の稲穂

秋田市, CC BY 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0, via Wikimedia Commons
毎年8月3日から6日にかけて、秋田市の夜空を彩る「竿灯(かんとう)まつり」。約280本もの竿灯が一斉に立ち上がる光景は、まさに黄金色に輝く稲穂のようです。最大の「大若」は高さ12メートル、重さ50キロにもなり、46個の提灯が吊るされています。
【専門の妙技:差し手の五大技】
差し手が竿灯を掌、額、肩、腰へと自由自在に移し替える技は必見です。これを「流し、平手、額、肩、腰」の五大技と呼びます。2026年は若手差し手の育成が進み、よりダイナミックな技が披露されることが期待されています。
【地元グルメ情報:きりたんぽと稲庭うどん】
秋田名物「きりたんぽ鍋」は夏でもスタミナがつきます。また、喉越しの良い「稲庭うどん」は、暑い祭りの夜の締めにもぴったりです。
山形花笠まつり(山形県山形市):蔵王の風を感じる1万人の群舞

f_a_r_e_w_e_l_l, CC BY-SA 2.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0, via Wikimedia Commons
8月5日から7日の3日間、一万人を超える踊り手が『花笠音頭』に合わせてダイナミックな舞を披露します。花笠に付いた紅花が揺れる様は、山形の豊かな自然と情熱を象徴しています。
【歴史の進化:伝統と現代の融合】
もともとの優雅な「正調花笠踊り」に加え、近年ではダイナミックな「男踊り」や「創作踊り」など多様なスタイルを楽しめるようになりました。2026年は地元の学生たちによる斬新な振り付けも注目を浴びています。
【地元グルメ情報:山形のソウルフード「芋煮」】
山形といえば「芋煮(いもに)」です。また、夏場は発祥の地として有名な「冷やしラーメン」もお勧めです。脂が固まらないように工夫されたスープは驚くほどさっぱりしています。
著者プロフィール
ヨーロッパ在住の旅と食のプロガイド
主にスペインに拠点を置いて30年。プロの観光ガイドとして、これまで数多くの日本人旅行者の皆様を世界各地でご案内してきました。また、日本国内ではスペイン語圏からの観光客をお迎えするガイドとしても活動。
ガイド業の傍ら、その土地ならではの「食」と「旅」の魅力を伝えるライターとして、雑誌や専門メディアにて、現地発のリアルな情報を多数掲載しています。「ガイドの視点」と「食へのこだわり」で、皆様の旅がより豊かなものになるよう、最新の情報をお伝えします。


コメント