東北の冬は長く、厳しく、半年近くを雪の中で過ごさなければなりません。そのため、東北の人達は短い夏に抑圧されたエネルギーを一気に解放します。それが、東北の短い夏を鮮やかに彩る「祭り」。今回は東北の祭りを徹底解説します。
東北六大祭りとは?「三大祭り」から進化した熱狂の系譜
かつては「青森ねぶた」「秋田竿燈」「仙台七夕」を指して東北三大祭りと呼ぶのが一般的でした。しかし現在、震災復興と東北の結束を象徴する動きとして、山形、盛岡、福島の祭りを加えた「東北六大祭り」という概念が定着しています。2026年も、これら6つの祭りがリレー形式で開催され、東北全体がひとつの熱狂に包まれます。
東北六大祭りの顔ぶれと2026年開催日程
- 盛岡さんさ踊り:8月1日〜4日(世界一の太鼓パレード)
- 青森ねぶた祭:8月2日〜7日(勇壮な人形ねぶた)
- 秋田竿燈まつり:8月3日〜6日(黄金の稲穂が揺れる妙技)
- 山形花笠まつり:8月5日〜7日(艶やかな花笠と「ヤッショ、マカショ」)
- 仙台七夕まつり:8月6日〜8日(街を彩る和紙の芸術)
- 福島わらじまつり:8月上旬(巨大なわらじと情熱的なダンス)
青森三大ねぶた(ねぷた)祭り
青森県では地域ごとに異なるねぶた・ねぷた祭が、各地で競い合うように開催されます。中でも「青森ねぶた祭」「弘前ねぷた祭」「五所川原立佞武多(ごしょがわらたちねぷた)」の3つは、規模が大きく個性が際立つことから「青森三大ねぶた」と呼ばれています。
青森ねぶた祭り(青森県青森市):光の巨獣が躍動する魂の祭典

Marie-Sophie Mejan, CC BY 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by/4.0>, via Wikimedia Commons
2026年も例年通り、8月2日から7日まで開催されます。高さ約5m、幅約9mという巨大な骨組みに和紙を貼り、内側から灯りを灯した「大型ねぶた」は、まさに光の彫刻。勇壮な武者絵が夜の街を練り歩く姿は、見る者の魂を大きく揺さぶります。
【ここが見どころ】
特に注目すべきは、最終日の7日夜に行われる「ねぶた海上運行」と花火大会の共演。ライトアップされた大型ねぶたが青森港を航行する姿は、地上での勇壮さとは異なる、幻想的な美しさです。
【地元グルメ情報:青森の旬を味わう】
青森市を訪れたら、絶対に外せないのが「のっけ丼」です。青森魚菜センターで、自分の好きな具材を選んで作る海鮮丼は格別の味わい。夏場は特に「陸奥湾産のホタテ」が甘みを増しており、絶品です。
弘前ねぷたまつり(青森県弘前市):扇に宿る「静」の美学

Kaburamata, CC0, via Wikimedia Commons
「青森ねぶた」が人形型なら、「弘前ねぷた」は扇型の山車が中心です。2026年も8月1日から7日にかけて、城下町の弘前らしい雅で情緒豊かな雰囲気に包まれながら開催されます。鏡絵(正面)の勇壮な武者絵と、送り絵(背面)の妖艶な美人が織りなす対比は、まさに動く芸術品。
【地元グルメ情報:弘前といえばリンゴ!】
祭りの合間に楽しみたいのが、弘前市内のカフェで提供される多種多様な「アップルパイ」。また、郷土料理の「いがめんち」(イカの足を叩いて野菜と揚げたもの)は、お酒のつまみに最高です。
五所川原立佞武多(青森県五所川原市):空を突き抜ける23メートルの衝撃

z tanuki, CC BY 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by/3.0>, via Wikimedia Commons
「ヤッテマレ!ヤッテマレ!」の掛け声と共に、五所川原の街に現れるのは高さ約23m(ビルの約7階分相当)に達する山車。
毎年8月4日から8日にかけて行われ、ビルの合間を巨大な光の塔が抜けていく光景は、他に類を見ない迫力を生み出します。 展示施設である「立佞武多の館」では、祭りの迫力を1年を通じてリアルに体感できるので見逃せません。
五所川原でしか味わえない名産
五所川原を訪れたら、ぜひ味わっていただきたいのが「つくねいも」です。非常に粘りが強く、滋養強壮に良いとされるつくねいもは、祭りの熱気を乗り切るためのエネルギー源として地元で愛され続けています。
また、五所川原近郊の十三湖で獲れるしじみは日本屈指の品質。「しじみラーメン」は、祭りで疲れた体に染み渡る優しく深い味わいで、観光客にも大人気です。
同じようで全く異なる青森各地のねぶた・ねぷた祭り
青森市は「ねぶた」、弘前市は「ねぷた」と呼びます。これは津軽弁の訛りの違いに由来するのだそう。そして、名前だけでなく祭りの性格も各地で全く異なります。
青森三大ねぶた・ねぷたの形状の違い
人形ねぶたと呼ばれる青森ねぶたは、歌舞伎や神話をモチーフにした立体的な形状が特徴。その一方で弘前ねぷたは、大きな扇形の平面に三国志や水滸伝の武者絵が描かれた平面的な美しさを追求しています。
そして青森市や弘前市のねぶた・ねぷた祭りの山車が横に広がる迫力を重視しているのに対し、五所川原の山車は縦の迫力を重視しています。
掛け声とリズムの違い
青森ねぶたは、「ラッセラー」という威勢の良い掛け声と共に、激しく飛び跳ねる「動」の祭り。対する弘前ねぷたは「ヤーヤドー」という重厚な掛け声と情緒豊かな囃子と共に、整然と進む「静」の祭り。
五所川原立佞武多は、「ヤッテマレ、ヤッテマレ!」という独特の掛け声を使います。これは「やってしまえ」という意味があり、かつて山車同士がぶつかり合った荒々しい歴史の名残を今に残しています。
青森ねぶた・ねぷた祭りの起源
祭りの背景には、古来からの「眠り流し」という風習があります。夏の農作業を妨げる「眠気」を魔物に見立て、川や海に流して払い清める儀式が起源です。青森では「ねぶた」、弘前では「ねぷた」と呼ぶのも、この「ねむたい」の訛りから来ているという説が有力です。
盛岡さんさ踊り(岩手県):世界一の太鼓パレード

yisris, CC BY 2.0 <https://creativecommons.org/licenses/by/2.0>, via Wikimedia Commons
8月1日から4日まで開催される「盛岡さんさ踊り」は、ギネス世界記録にも認定された「世界一の太鼓パレード」。数千人の踊り手が一斉に太鼓を打ち鳴らしながら踊る姿は、お腹の底まで響く地響きのような迫力があります。
さんさ祭りの名前の由来
さんさ祭りの起源は、三ツ石神社の神様が悪鬼を退治した際、喜んだ人々が「さんさ、さんさ」と踊ったことにあるとされています。岩手という名の由来(鬼が二度と来ない証に石に手形を残した「岩に手」)とも深く関わっている、歴史ある祭りです。
必食の名物:盛岡冷麺
祭りの熱気で火照った体には、盛岡冷麺が一番です。強いコシのある麺と、牛骨ベースの冷たいスープ、そして口直しに添えられたスイカや梨などの果物が、最高の爽快感を与えてくれます。
竿灯まつり(秋田県秋田市):夜空に揺れる巨大な光の稲穂

秋田市, CC BY 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by/4.0>, via Wikimedia Commons
毎年8月3日から6日にかけて、秋田市の夜空に浮かび上がるのは、1万個を超える提灯です。竿燈を稲穂に見立てて五穀豊穣を祈る祭り。しなる竹竿に多くの提灯を吊るした約280本もの竿灯が、一斉に立ち上がる光景はまさに黄金色に輝く稲穂のようです。
夏の病魔や邪気を払うために、長い竿を十文字にしていくつもの灯火をつけ、太鼓を叩きながら町を練り歩いたのが起源なのだそう。
竿灯まつり最大の見所
巨大な竿灯を、ひとりの持ち手が絶妙なバランスで支える様子が見どころです。差し手が竿灯を手のひら、額、肩、腰へと次々に移し替える技は圧巻です。そのため、夜間だけでなく、昼間に行われる「妙技会(コンテスト)」も観覧席が即完売するほどの大人気。
竿燈を支える差し手たちの、極限まで鍛え上げられたバランス感覚に注目してください。最大の竿燈「大若」は高さ12メートル、重さ50キロに及び、46個の提灯が吊るされています。
必食の名産:稲庭うどん
秋田が誇る稲庭うどん。細麺ながらもしっかりとしたコシと、つるりとした喉越しは、食欲が落ちがちな夏でも美味しくいただけます。地元の比内地鶏の出汁でいただく冷やしうどんは格別です。
山形花笠まつり(山形県山形市):蔵王の風を感じる1万人の群舞

f_a_r_e_w_e_l_l, CC BY-SA 2.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0>, via Wikimedia Commons
1965年に始まった、比較的新しいながらも山形を代表する祭りへと成長した「山形花笠祭り」。8月5日から7日の3日間、一万人を超える踊り手が『花笠音頭』に合わせてダイナミックな舞を披露します。花笠に付いた紅花が揺れる様は、山形の豊かな自然と情熱を象徴しています。
【歴史の進化:伝統と現代の融合】
山形花笠まつりの特徴は、踊りの多様性にあります。一糸乱れぬ「正調花笠踊り」から、笠をダイナミックに回す「笠回し」、そして自由奔放な創作踊りまで、観る者を飽きさせません。
【地元グルメ情報:山形のソウルフード「芋煮」】
山形といえば「芋煮(いもに)」。里芋、牛肉、コンニャク、ネギを醤油ベースで煮込んだ味は、山形県民の誇りです。夏場は冷やして食べる「冷やしラーメン」も発祥の地として有名です。脂が固まらないように工夫されたスープは驚くほどさっぱりです。
「玉こんにゃく」も忘れないように。醤油ベースの出汁でじっくり煮込まれた丸いこんにゃくは、味が染みていて絶品。割り箸に刺して売られているので、祭りを歩きながら手軽に味わえます。
仙台七夕まつり(宮城県仙台市):政宗公から続く、日本一の優美な笹飾り

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毎年8月6日から8日にかけて行われる「仙台七夕まつり」。全国各地で開催される七夕祭りの中でトップクラスの知名度を誇ります。伊達政宗公の時代から続くといわれるこの祭りの主役は、アーケードを埋め尽くす色とりどりの巨大な笹飾り。地元の人々が数ヶ月かけて手作りするこれらの飾りは、芸術的な完成度を誇ります。
【知的好奇心をくすぐる話】
仙台七夕には、それぞれ意味を持った「七つの飾り」があります。例えば、短冊は学問成就、折鶴は家内安全・長寿など。これら全てを探しながら歩くのが、大人の七夕の楽しみ方です。
【地元グルメ情報:仙台牛タンとずんだ】
仙台に来たら「牛タン焼き」は欠かせません。分厚くカットされたタンの食感は驚きです。食後のデザートには、枝豆の香りが爽やかな「ずんだ餅」や「ずんだシェイク」がおすすめです。
福島わらじまつり(福島県):再生と情熱の巨大わらじ

Ka23 13, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons
8月上旬(通常第1金曜〜日曜)に開催される福島わらじまつり。長さ12メートル、重さ2トンという日本一の「大わらじ」が練り歩く姿は、圧倒的な存在感を放ちます。
なぜ「わらじ」なのか?
福島わらじ祭りのルーツは、福島市のシンボルである信夫山(しのぶやま)にある「羽黒神社」の例祭「暁まいり」にあります。仁王門に安置された大きな仁王様の足に合うわらじを奉納し、「健脚(足が丈夫になること)」や「旅の安全」を祈願したのが始まりなのだそう。
必食の名物:円盤餃子
福島の夜に欠かせないのが円盤餃子です。福島市は、実は日本屈指の餃子の街。フライパンに円形状に並べて焼き上げ、そのままお皿に出す「円盤餃子」が名物です。皮がパリッとしていて中はジューシー。仲間と囲んで食べるのにぴったりの、福島のソウルフードです。
著者プロフィール
ヨーロッパ在住の旅と食のプロガイド
主にスペインに拠点を置いて30年。プロの観光ガイドとして、これまで数多くの日本人旅行者の皆様を世界各地でご案内してきました。また、日本国内ではスペイン語圏からの観光客をお迎えするガイドとしても活動。
ガイド業の傍ら、その土地ならではの「食」と「旅」の魅力を伝えるライターとして、雑誌や専門メディアにて、現地発のリアルな情報を多数掲載しています。「ガイドの視点」と「食へのこだわり」で、皆様の旅がより豊かなものになるよう、最新の情報をお伝えします。


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