日本人にとって、桜は単なる花ではありません。新たな出会いと惜別の情を映し出す、心の象徴ともいえる存在。今回は、国の天然記念物に指定されている「日本三大桜」を筆頭に、日本全国の桜の名所と、そこでしか味わえない絶品グルメをご紹介します。
千年の時を超えて咲き誇る「日本三大桜」
まずは、日本人が古来より尊んできた、国の天然記念物「日本三大桜」から見ていきましょう。これらの桜は、単なる樹木ではなく、千年以上もの歳月を生き抜いてきた「生命の記念碑」でもあります。
三春滝桜(福島県):天から降り注ぐピンクの滝

福島県三春町に鎮座する「三春滝桜(みはるたきざくら)」は、樹齢1,000年を超えるベニシダレザクラの巨木。エドヒガン系の変種で、花色が濃いのが特徴です。樹高13.5m、幹回り11.3m。その名の通り、滝の水が流れ落ちるように四方に枝を垂らしている姿から、この名がつきました。
なぜ「三春」という名なのか?
三春という地名は、「梅・桃・桜」の三つの花が同時に咲くことから名付けられたと言われています。この時期の三春町は、まさに桃源郷のような美しさを誇ります。
周辺グルメ:香ばしい「三角油揚げ」
三春名物の「三角油揚げ」は、ぜひ現地で召し上がっていただきたい一品です。「ほうき揚げ」とも呼ばれ、中にネギや味噌を挟んで焼いた香ばしさは、お花見のお供に最高です。
山高神代桜(山梨県):神話が宿る日本最古の巨樹

山梨県北杜市の実相寺境内に立つ「山高神代桜(やまたかじんだいざくら)」は、日本最大級かつ最古の桜です。推定樹齢はなんと2,000年。日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が東征の折に植えたという伝説が残る、まさに神話の世界から抜け出したような一本桜です。品種はエドヒガンザクラで、樹高10.3m、幹周りは11.8mに及びます。
宇宙から帰還した「宇宙桜」
実相寺の境内には、神代桜の種が国際宇宙ステーションで8ヶ月間宇宙を旅した後に地球へ戻って発芽した「宇宙桜」も植えられています。この宇宙桜は、通常の桜よりも成長が早く、花びらの数が変化するなど不思議な現象が確認されており、生命の神秘とロマンを感じさせてくれます。
周辺グルメ:北杜の清流が育んだ「蕎麦」
北杜市は名水の里としても知られています。近隣の蕎麦処では、南アルプスの天然水で打ったコシの強い「信州・甲州蕎麦」を堪能できます。桜を愛でた後の喉越しは格別です。
根尾谷淡墨桜(岐阜県):色の変化が紡ぐ不屈の物語

岐阜県本巣市の「根尾谷淡墨桜(ねおだにうすずみざくら)」は、つぼみの時は淡いピンク、満開時は白、そして散り際には特有の「薄墨色」に変化することから、その名が付けられました。継体天皇が即位の際に植えたと伝えられ、樹齢は約1,500年を数えます。何度も枯死の危機に瀕しながらも、人々の献身的な保護によって守り抜かれてきた「不屈の桜」です。
作家・宇野千代が愛した桜
この桜は、昭和時代に絶滅の危機にありました。その窮状を救ったのが作家の宇野千代氏です。彼女の熱心な啓蒙活動により、再生治療が行われ、現在の見事な姿が保たれています。淡墨桜を見る際は、ぜひ彼女の著書『淡墨の桜』を手に取ってみてください。風景がより深く、色鮮やかに感じられるはずです。
周辺グルメ:濃厚な「うすずみ豆腐」
近くの売店で提供されている「うすずみ豆腐」は、地元の良質な水と厳選された大豆を使用した逸品。大豆本来の甘みが強く、桜の色合いをイメージしたパッケージはお土産にも最適です。
圧倒的なスケールを誇る「日本三大桜の名所」
次に一本桜の美しさではなく、数千本、数万本の桜が織りなす圧倒的な景観が自慢の「日本三大桜の名所」をご紹介します。誰が決めたかは定かではありませんが、古くから「日本三大桜の名所」として親しまれています。
弘前公園(青森県):リンゴの剪定技術が生んだりんごのような桜

弘前城跡に広がるこの公園は、52品種、約2,600本の桜が咲き誇る日本屈指の名所です。ここの桜が他と一線を画すのは、日本一の生産量を誇る「リンゴの剪定技術」を桜に応用している点にあります。通常、桜の枝はあまり切りませんが、弘前ではリンゴのように細かく剪定することで、低い位置にボリュームのある花を密集させています。
見どころは何といっても、お堀を埋め尽くす「花筏(はないかだ)」。散った花びらが水面をピンクの絨毯のように覆い尽くす様は、SNSで世界中に拡散される「絶景の極み」です。また、夜の西濠に映るリフレクション(逆さ桜)も必見です。
日本最古のソメイヨシノの真実
以前は弘前公園のソメイヨシノが「日本最古」とされてきましたが、近年の正確な調査により、福島県開成山公園の木が1878年植樹であると判明し、そちらが最古となりました。しかし、弘前には樹齢100年を超えるソメイヨシノが400本以上現存しており、これほどの巨木群が維持されている場所は世界でも他に類を見ません。
周辺グルメ:弘前の「アップルパイ」と「いがめんち」
弘前はリンゴの街。市内の数多くのカフェで個性豊かな「アップルパイ」が提供されています。また、郷土料理の「いがめんち(イカのメンチ)」は、イカの足を叩いて野菜と混ぜて揚げたもので、お花見のビールに最高の相性です。
高遠城址公園(長野県):天下第一の呼び声高い固有種

高遠城址公園にしか咲かない固有種「タカトオコヒガンザクラ」が約1,500本並ぶことから、「天下第一の桜」と称されています。エドヒガンとマメザクラの自然交配種で、ソメイヨシノよりも小ぶりでピンクの色味が強いのが特徴です。満開時には山全体が燃えるような色彩に包まれます。
タカトオコヒガンザクラのルーツ
タカトオコヒガンザクラは、明治時代に元高遠藩士たちが、荒れ果てた城跡を惜しんで桜を植えたのが始まりです。この品種は、長野県の天然記念物に指定されています。非常に寿命が長く、樹齢140年を超える古木も現役で美しい花を咲かせています。
周辺グルメ:高遠そば(焼き味噌で食べる蕎麦)
高遠に来たら「高遠そば」は外せません。つゆに「焼き味噌」と「辛口の大根おろし」を入れて食べる独特のスタイルは、江戸時代からの伝統です。香ばしい味噌の風味が桜の記憶と共に刻まれます。
吉野山(奈良県):信仰が育んだ3万本の雲海

1,000年以上前、修験道の開祖が桜の木に金剛蔵王権現を刻んだことから、桜は「ご神木」として崇められてきました。信者たちが苗木を寄進し続けた結果、山全体が3万本の桜で覆われる現在の光景が生まれました。下・中・上・奥の「一目千本」と呼ばれる景観は、まさにこの世のものとは思えない極楽浄土の景色です。
なぜ吉野の桜は長く楽しめ散り際が美しいのか?
吉野の主役は「シロヤマザクラ」です。ソメイヨシノと違い、花と同時に赤茶色の若葉が芽吹くため、山全体が多層的な色彩を見せます。また、標高差があるため、山裾から山頂へと1ヶ月近くかけてゆっくりと咲き上がっていくのが特徴。この時間差こそが、吉野の桜を長く楽しめる理由です。
周辺グルメ:吉野葛と「柿の葉寿司」
吉野名物の「くず餅」は、最高級の吉野本葛を使用した透明感と弾力が特徴。また、奈良の郷土料理「柿の葉寿司」は、保存食としての歴史があり、お花見の弁当として今も昔も一番人気です。
知る人ぞ知る全国の桜絶景スポット
日本人と桜の特別な関係は、弥生時代から始まったとされます。穀物の神が宿る神聖な樹木として桜が祀られ、桜が満開になると田植えを開始したのだそう。それほど桜との繋がりが深い日本には、数多くの桜の名所が点在します。
五稜郭公園(北海道):北の大地に描かれる星の桜

5月上旬に見頃を迎える北海道随一の名所です。園内の五稜郭タワーから見下ろすと、星形の城郭が1,600本の桜で縁取られた、幾何学的な美しさを堪能できます。ちなみに北海道では、桜の下でジンギスカンとビールを楽しむのが定番です。
周辺グルメ:函館塩ラーメンと海鮮
函館といえば「塩ラーメン」。お花見で冷えた身体を、透明なスープの熱い一杯が癒してくれます。また、近隣の五稜郭周辺には、獲れたての海鮮を楽しめる居酒屋も豊富です。
伏見十石舟クルーズ(京都府):水上から愛でる歴史の薫り

かつて京都と大阪を結ぶ水運の拠点として栄えた伏見。旅人や酒、米などを乗せた十石船が頻繁に行き交っていました。この伝統的な船でクルーズしながら、運河沿いの桜並木を楽しむことができます。また、乗船場近くには坂本龍馬が定宿とし、襲撃事件の舞台となった寺田屋があります。
周辺グルメ:日本酒と「酒饅頭」
伏見は日本有数の酒どころ。名水「伏水」で仕込まれた日本酒の利き酒を楽しめる施設が点在しています。お酒が苦手な方には、ふんわりと酒粕が香る「酒饅頭」がおすすめです。
新倉山浅間公園(山梨県):世界が絶賛する「これぞ日本」の風景

富士山、五重塔、そして満開の桜。この三要素が一枚のフレームに収まるスポットとして、今や世界で最も有名な桜名所の一つです。650本のソメイヨシノが植えられており、開花に合わせて桜まつりも開催されます。398段の「咲くや姫階段」を登るのは少し大変ですが、その先には一生忘れられない光景が待っています。
【2026年最新:混雑回避術】
SNSの影響で、午前中は展望デッキの入場待ちが数時間に及ぶことがあります。狙い目は「日の出前」の到着。朝日に照らされる「紅富士」と桜のコラボレーションは、早起きした人だけの特権です。
周辺グルメ:コシが自慢の「吉田のうどん」
富士吉田市のソウルフード「吉田のうどん」。日本一硬いとも言われる非常にコシの強い麺が特徴です。キャベツや馬肉がトッピングされ、味噌と醤油を合わせた独特のつゆは、一度食べたら癖になります。
西都原古墳群(宮崎県):桜と菜の花のコントラスト

300基以上の古墳がある西都原古墳群は、桜並木と菜の花のコラボレーションで人気を博す絶景スポットです。約8ヘクタールの敷地内に2,000本の桜と30万本の菜の花が同時に咲き乱れ、ピンクと黄色の鮮やかなコントラストが視界いっぱいに広がります。
周辺グルメ:宮崎地鶏の炭火焼き
宮崎といえば地鶏。西都原周辺の飲食店では、噛めば噛むほど旨味が溢れ出す「地鶏の炭火焼き」が楽しめます。柚子胡椒を添えて頂けば、旅の疲れも吹き飛びます。
北上展勝地(岩手県):空を泳ぐ鯉のぼりと桜のトンネル

北上川沿いに続く2kmの桜並木は圧巻の一言。4月上旬からゴールデンウィークにかけて「北上展勝地さくらまつり」が開催されます。川の上空を泳ぐ何百匹もの「鯉のぼり」と桜のコラボレーションは、日本の原風景を感じさせる情景です。観光馬車に揺られながら眺める桜も風情があります。
周辺グルメ:北上コロッケ
地元の特産品である「二子さといも」、黒毛和牛、白ゆりポーク、そしてアスパラガスを使用した「北上コロッケ」。粘り気のある里芋の食感が独特で、食べ歩きにも最適です。
白石川堤一目千本桜(宮城県):残雪の蔵王連峰を背に

大河原町を流れる白石川の岸辺に、桜並木が8kmに渡って続きます。ソメイヨシノを中心に1,200本の桜の木が並び「さくら名所百選」にも選出されました。ここの魅力は、背景にそびえる「残雪の蔵王連峰」との共演です。雪の白、桜のピンク、そして青空のコントラストは、東北の春ならではの絶景です。
周辺グルメ:萩の月と銘菓たち
大河原町周辺は美味しいお菓子の宝庫。宮城を代表する銘菓「萩の月」をはじめ、桜を眺めながら楽しめるスイーツが豊富です。お花見の後は、地元の和菓子店巡りもおすすめです。
錦帯橋(山口県):造形美と桜の調和

日本三名橋のひとつで、5連のアーチが美しい「錦帯橋」。釘を一本も使わずに組み上げられた木組みの技術は、江戸時代の職人魂の結晶です。清流・錦川に沿って咲く桜と、橋のシルエットが織りなす構図は、一幅の絵画のような完成度を誇ります。隣接する吉香公園(きっこうこうえん)と共に、さくらの名所100選に選ばれています。
周辺グルメ:岩国寿司(角ずし)
「岩国寿司」は、一度に数十人分を作る巨大な押し寿司。レンコンや魚の身、錦糸卵などが彩り豊かに盛り付けられ、「殿様寿司」とも呼ばれる華やかさはお祝いの席にぴったり。お花見の気分をさらに盛り上げてくれます。


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