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スペイン的節約レシピ スペイン料理の定番ミガスの起源と作り方

      2018/03/16

大不況の世の中、世界の節約レシピを使って楽しく貧乏を乗り越える事が出来たら。そんな思いで世界の節約料理のレシピを集めてみようと思います。今回はスペイン、硬くなったパンを再利用するレシピです。

 

スペインの倹約 ミガスは固くなったパンが美味しく生まれ変わるレシピ

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スペインと日本の大きな違いの一つは湿度。乾燥したスペインではパンが直ぐに固くなります。そんな固くなったパンを美味しく蘇らせるレシピがスペインには沢山あります。

そもそもスペインには個別包装という概念がありません。湿度が無く空気が大変乾燥しているからです。ポテトチップスは量り売りでむきだしのまま売っているし、焼きたてフワフワのバゲットも一日経てば石みたいにカチカチになってしまいます。

スペインは昔から貧乏な国でした。そんな固くなってしまったパンを捨てる事なく、再利用して美味しく食べるレシピが沢山存在します。ミガスもその内の一つ。スペイン語でパン屑を意味するミガスはスペインを代表する伝統的な料理です。

基本の材料はパン、ニンニク、オリーブオイル。どの家庭にも常備されている安価な材料のみで作る事の出来るレシピなので、何時も貧乏と背中合わせで生きてきたスペイン国民に人気のあるレシピです。ミガスはオリーブオイルでパン屑を炒って作ります。とにかく腹が膨れて、腹持ちが良いのが特徴。食べ終わった後のずっしり感が凄い料理なので昔から貧乏人のレシピ、お給料前レシピと呼ばれ親しまれてきました。

 

スペインのミガスは貧乏人だけでなく、羊飼いにも重宝したレシピ

ミガスはスペインだけでなくポルトガルの内陸地方でも良く食べられている料理です。それはミガスが別名、羊飼いのパン屑と呼ばれる程、羊飼いと深い繋がりを持ったレシピだからです。イベリア半島は古くから羊と深い関りがありました。

現在全世界で生産されるウールの40%を占めるメリノ種の羊はスペインが原産です。かつてのスペイン国王はメリノ羊によるウール産業を強力にバックアップし、膨大な財産を築きました。新大陸を発見したコロンブスの大航海も羊で稼いだ国費によって賄われたものです。

そんな国の宝とも言える羊達の群れを寒さが厳しくなる頃、北から南へ歩いて移動させるのが羊飼いの仕事です。羊たちの食料となる草を求め、スペインの大地を、何もないあの荒涼とした土地を、パートナーである犬と一緒に沢山の羊を引き連れて歩く孤独で過酷な仕事。

何か月も何もない土地を歩く生活が続くのですから食料は長期保存が効くものが主体です。羊飼いが何時も持ち歩いているのは小さなフライパン、豚の腸詰め、ニンニク、そしてパン。これらの材料を使って、羊飼い達が好んで作った野外料理の代表がミガスです。

とてもシンプルな料理なので一番大切なのは素材です。特にパン。現在スペインの人達はフランスパンを中心に食べますが昔は「村のパン」と呼ばれる丸いどっしりとしたパンが主流でした。このパンは日持ちするのが特徴で、フランスパンが一日経てば石みたいに固くなってしまうのと比べて、村のパンは一週間持ちます。

羊飼い達は新しいパンを中々買えないので、大きなパンをずっと持ち歩きます。とても日持ちがするパンですが一週間位するとやはり固くなります。それをナイフで削って水でふやかし、油で炒って野菜や肉などを加えて食べたのです。

今回はそんな羊飼いのレシピ、ミガスで有名なエクストゥレマドゥーラ地方に住むラウルさん一家が昔ながらの方法でミガスのレシピを実演してくれました。

 

ミガスの材料

固くなったパン 1キロぐらい

水 1カップ

ニンニク 一株

赤ピーマン 500グラムぐらい

オリーブオイル コップ一杯

今だって景気が悪くて生活が苦しいけれど、昔のスペインはもっと酷かった。スペイン料理の根底にあったのは、何時だって「空腹を満たすこと」だったのよ。そう言いながら固くなったパンをナイフで削っていくマリアさん。子供の頃の思い出はとにかくこのミガスで、毎回お母さんを手伝って固くなったパンを削ったのだそう。

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ミガスは貧困にあえいだ地方の郷土料理

ミガスはとてもシンプルな料理です。とにかくパンが主役なので、まずはミガスにふさわしいパンを獲得する事が重要。周りが固い、丸い形の「村のパン」と呼ばれるパンを使うのが一番です。外側は固く、中にはぎっしり柔らかい身がつまっています。そして新しいパンではなく、固くなってしまったパンを使う事も大切です。

固くなってしまったパンをナイフをそぎ落とし細かくして使います。首都マドリッドやバルセロナではまず見かけませんが、ミガスの故郷であるエクストレマドゥーラ地方では固くなったパンを削ったパン屑が袋詰めで売られています。パンを削るのが結構大変な作業なので、パン屑の袋詰めはとても便利な商品。でも残念ながらスペイン全土何処でも売っている訳ではありません。

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エクストレマドゥーラ地方流、ミガスの作り方

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パンを全て薄く削ったら水を全体にかけてパンを濡らします。この時、軽く濡らす程度で大丈夫です。びちょびちょにさせてはいけません。この水加減が大変重要になるので注意が必要です。パン全体がしっとりするぐらいの水を加え、よくかき混ぜ揉み込んだ後、布巾で蓋をして一晩置いておきます。この時、少しだけ塩を全体にふりかけます。

大きな鍋にオリーブオイルを熱し、ニンニクを炒めます。ミガスを作る時、ニンニクの扱いはかなり豪快です。ニンニクを丸ごと一株、皮ごと半分に切って炒めます。ニンニクが黄金色になったら赤ピーマンを加えます。焦げないよう炒めるのが重要。

ミガスはパンが基本です。それ以外に投入する食材は各家庭、各地方によって違います。エクストレマドゥーラ地方では赤ピーマンだけを入れるのが特徴。その他の地域では肉や豚の腸詰などを入れる事が多いです。これらの具材は良く炒めてから、パン屑を投入する前に一度取り出します。

ミガスの基本はパン屑をニンニクのきいた大量の油で炒める事。もう本当に大量のオリーブオイルを使います。目安はコップ1杯。それだけのオリーブオイルを使っても、パン屑にあっとゆう間に殆ど吸収されてしまいます。勿論ミガスを食べる時はカロリーの事は考えない方が良いと思います。

ニンニク、ピーマンを取り出したオリーブオイルにパン屑を少しずつ加えます。中火をキープしながらゆっくりじっくり木べらでかき混ぜませす。塩加減をみて味を調節しながら、焦げないよう、まんべんなくパン屑に火が通るように木べらで何回もかき混ぜて炒めます。

これがとても重要でかき混ぜる程に美味しくなるのがミガス、なんて諺が昔から存在する程です。忍耐力を持ってゆっくり、じっくりかき混ぜて、パン屑が本当に屑になって黄金色になるのが理想です。この作業が美味しいミガスとそんなでないミガスになる境目で、この過程を怠るとただの脂っこいパン屑になってしまうので注意が必要。

最後に取り除いておいたニンニクと赤ピーマンを再び鍋に戻しかき混ぜたら出来上がりです。

 

かつては貧乏人達の為のメニュー。今ではレストランで楽しむ味

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ミガスは日本で言うチャーハンみたいなものでしょうか。パラパラが命。そしてそのまま食べる人もいれば、付け合わせに目玉焼きや、肉などを添えて食べたりもします。エクストレマドゥーラ地方では決まって絶対焼きイワシと一緒に食べます。

イワシの油が入るとクドクなって美味しくないので、別の鉄板でイワシは焼きます。イワシと赤ピーマンのコンビネーションは抜群で、最強。豚の腸詰や肉類を混ぜる場合はマスカットやシャキシャキした食感の余り甘くないメロンと一緒に食べる事が多いです。肉類のしょっぱさと脂っぽさがすっきりみずみずしいフルーツで緩和され、最高に美味しくなります。

ミガスはとてもシンプルな料理。作り方はとても簡単なのですがとにかく時間がかかります。火にかかりっきりで何回も何回もかき混ぜながら調理しなくてはいけないので根気も必要です。なのでスペイン国民がどん底の貧乏から抜けられたのと同時にミガスも少しづつ人々の日常から離れていってしまいました。

最近では余程の事が無い限りミガスを作る事はありません。生半可な気持ちで調理すると必ず不味くなる料理なのでやる気がないなら作らない方がマシなのです。それでもやっぱりミガスが食べたい人達はレストランへ行きます。ミガスを扱うレストランは少ないのですが、地方によっては毎週木曜日がミガスの日となる土地もあります。

 

ミガスを食べれば本当のスペインが見えてくる

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なかなかお目にかかるのが難しい料理なのでミガスは観光客には余り知られていません。でもスペインを代表する料理を選ぶならパエリアなんかより断然ミガスだと思います。

伝統的なスペイン料理ですが、起源はアフリカのイスラム教徒にあるとされています。クスクスをスペイン風にパンで作ろうとしたのが元だとか。宗教上豚を食べないイスラム教徒達の料理との違いを色濃くする為に豚のソーセージ等を加える事になったとの事です。

ミガスを作るのに一番大切なのは時間と根気。是非一度スペインの羊飼いのレシピ、大きな心で試してみてください。

 

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