世界食べ尽くしの旅 

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ポルトガル料理を深く極める為にマタンサへ招待してもらおう

      2017/04/02

残酷と言うなかれ。ベジタリアンでない限り、肉を食べるには誰かが動物を殺して解体しなければならないのだから。ポルトガルのマタンサをレポートします。

 豚肉大国のイベリア半島で一番大切な冬の行事 マタンサ

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スペインとポルトガルがあるイベリア半島は800年の長きに渡ってイスラム教勢力に支配されていました。キリスト教徒達による抵抗運動、レコンキスタが活発化すると、反イスラムの意味を込めて豚肉を食べる事が普及しました。イスラム教では豚肉を食べる事が禁じられているからです。

食べ物は何時だって歴史と深い関係を持ちます。その国の食べ物を知る事は、その国の歴史を学ぶ事でもあるんです。確かにイベリア半島って、本当に良く豚肉を食べます。そんな豚肉大国で、一番重要な季節がやってきました。

イベリア半島の田舎で、12月に行う大切な行事と言えばマタンサです。マタンサとは物騒ですが「殺害」を意味します。家庭で食べる一年間分の肉やソーセージを、自分達の庭で一年間飼育して丸々と太らした豚を殺して作る日の事です。

マタンサはイベリア半島だけに存在する行事ではありません。ヨーロッパは寒くて冬の間は農作物が殆ど育たない土地が多いんです。そんな土地に住んでいる人達は厳しい冬の食料として、ドングリなどを食べて育つ豚を森で飼育しています。そして農作物の収穫が可能になる春まで、自分達が飼っている豚を殺して食いつなぐのです。

ヨーロッパではクリスマスが大変重要な行事なので、どこの国でもクリスマス前にマタンサを終える事が多いです。家族全員が集まり、豪華な食事を囲むクリスマスの為に大量の肉を用意する事が必要だからです。マタンサはヨーロッパに広く存在する習慣ですが、イベリア半島はやはり他の国と比べてマタンサの重要度が強い気がします。DNAに組み込まれたイスラム教徒達への恨みなのかもしれませんね。

 

 マタンサは生きる為には必要な事、でも実際に目にするにはキツイ

マタンサは12月を中心に行われ、家族の大きさにもよりますが1~2頭の豚が殺されます。家庭単位でする事が殆どですが、中には村の広場に沢山の人を集めて、皆で歌って踊って飲んで楽しみながらマタンサをする土地もあります。収穫祭のような意味合いで、その年の最初の犠牲である豚に感謝するのです。村人総出で行事に参加する事で仲間意識を強く持ち、食料事情の厳しい冬を一丸となって乗り切ろう、との意味も持つそうです。

マタンサは年々廃れている行事でもあります。若者の減少が原因です。マタンサが行われるような農村では多くの若者達が街へ出ていってしまっています。お年寄りだけになった村も多く、重労働であるマタンサをする事が出来ません。

そして町へ出て行ってしまった若者達にとって、自分達が飼育している豚を殺す、という作業は残酷極まりない事のように映ります。自分達の親、おじいちゃんおばあちゃんが作る自家製の生ハムやソーセージは大好きだけれど、マタンサには決して積極的に参加しない若者達が増えているのです。

確かにマタンサは都会育ちの人達には衝撃の強い行事です。自分が肉を食べる限り、誰かがその動物を殺してくれている事は理解しているのですが、実際にその現場を目の当たりにすると何だかとても残酷に感じてしまうのです。

伝統的な豚の屠殺方法は、通常スーパーで既に処理をされ商品となった豚肉を買っている人間には衝撃的過ぎます。豚を殺す際に一番重要なのは血抜きです。この血抜きをきちんと行わないと豚肉が直ぐに腐ってしまいます。なので豚の意識がある状態のまま台の上に拘束して、鋭利な刃物で喉を突き失血死させ心臓死を出来る限り遅らせる必要があるからです。この方法だと死に至るまでの豚の苦しみが長く、凄まじく、その鳴き叫び声を聞いたものは二度と豚肉が食べられなくなるとも言われています。

私も初めてマタンサに参加した時は、村中に響くような豚の叫び、その後の解体作業で見た血だらけの光景が脳にこびりついて、豚肉が食べられなくなってしまった時期もありました。でもマタンサは肉を食べる者にとって必要不可欠な行為です。敬虔なベジタリアンでもない限り残酷と感じてしまうべきではありません。

ただやっぱり衝撃的なのは確かです。ヨーロッパでは昔から日本に比べてベジタリアンの人が多いのですが、一番の理由はマタンサが身近にあるからなのかもしれません。

 

 スペインとポルトガルのマタンサの違い

スペインとポルトガルは昔から同じ歴史を生きてきたので大まかな所は似ているのですが、細かい所が色々と違います。何事もポルトガルの方がマイルドな感じがします。例えば闘牛。ポルトガルにも闘牛がありますが、スペインとは違い牛を死に至らせません。

マタンサも同じで、ポルトガルでは豚は電気ショックで殺してから血抜きします。肉のもち、美味しさを追及するのなら、より残酷な方法であっても伝統的なやり方で豚を殺した方が良いです。でもあの豚の鳴き声はやっぱりキツイので、私的にはポルトガル風のマタンサの方が気分的に楽でした。

これからそんなポルトガルのマタンサを詳しく解説していきますが、残酷な描写が多いので注意して読んで下さい。

 

 ポルトガルのマタンサ 詳細解説

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まずは豚を殺す事から始まります。豚って勘が鋭いんです。通常に餌をくれる時、マタンサで殺される時、違いを敏感に確実に感じ取ります。だからマタンサの日、豚は必ず逃げ回ります。数人で追い立て捕まえ、豚を殺す専門の業者の人の前に引っ張っていく必要があります。
豚って自分の意に反して動く事を頑なに拒む習性があります。敏感に身の危機を感じ取り泣き叫びイヤイヤする豚を皆で押しながら業者さんの前まで連れて行く。ここが誰にとっても一番辛いポイントです。

ポルトガルには豚を電気ショックで殺す専門の人達が存在します。この方法だと豚に恐怖やストレスを与える事無く素早く殺す事が出来るし、自分達で可愛がって育てた豚を自分達の手で殺すのが辛いからだと言います。専門の業者さん、とは言え普段は別の仕事をしていて、マタンサの季節になるとアルバイト的に請け負う感じです。一頭につき50ユーロ位。豚を殺して毛を焼くまで、1時間から2時間位の仕事です。全ての作業を業者さんだけに任せる訳ではなく、業者さんの指示の元、皆で共同作業する感じです。

12月はマタンサの季節。いくらマタンサをする家庭が少なくなってきているとは言え大忙し。人手が沢山必要なのでマタンサは週末に集中します。土曜日の今日、業者さんは何と8件のマタンサを掛け持ちするのだそう。主要な作業が終わったら直ぐ次の家庭へと飛んで行ってしまいました。

電気ショックで豚を殺すのは、本当に一瞬の作業でした。殺した豚を台の上に乗せます。豚は大変重いのでマタンサには何人もの人手が必要です。なので日頃近所付き合いが盛んな村、もしくは大家族でないとマタンサをする事が出来ません。この村ではマタンサの季節が近くなると近所の人達が集まり、各家庭の都合に合わせて日付を決め、皆で順番に助け合って作業します。

台の上に豚を仰向けに置き、喉を切って血を抜きます。ポルトガルでも豚の血を使って色々な料理を作るので、地面にバケツを置いて全ての血を受け取ります。

豚は全身を固い毛で覆われているので、毛を焼く事が必要です。消毒の意味も含めてプロパンガスを使ったバーナーで体全体を焼きます。ナイフで焼け焦げた毛を削り取り、水をかけて流します。綺麗になったら腹の部分を切り全ての内臓を取り出します。腸や胃袋はソーセージを作る時に必要なので桶にとり、中身を取り出し綺麗に洗います。

内臓を全て取り出したら、食器洗いの洗剤とスポンジで豚の表面を良く洗います。耳や鼻にも切れ目を入れて中の中まで綺麗にします。耳、足、鼻、豚は本当に捨てる場所がなく、肉だけでなく全ての部位を食べるので徹底的に洗う事が必要です。

ポルトガルではバーナーを使って毛を焼き、洗浄した後、藁に火を付け、それで豚の全身を叩きます。この作業はポルトガル特有のもので、そうする事によって肉が固くしまって更に美味しくなるのだそう。

 

ポルトガルのマタンサは2日必要、肉の解体作業は翌日以降

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再び水で綺麗に洗い流したら尾てい骨にロープを通し納屋に吊るします。この時豚の外側と内側にワインをかけ、良く洗います。ハエが来ないように胡椒を肉全体に振りかけ、肉がしまるように一晩置き翌日以降に解体作業に入ります。

大きな包丁で肉を切り取り、骨の部分は斧を使って切断していきます。スペインでは豚の後ろ足、前足の部分は生ハム用に丸ごとキープするのですがポルトガルでは肉用に切断せる家庭が主流なのだそう。スペイン程生ハム重視の生ハム信者ではないそうです。

 

 食べ物に感謝して食べる事が大切

マタンサをする家庭は年々少なくなってきています。最近では自分達で飼った豚を業者に連れて行き全てを任せ、解体された肉だけを受け取る家庭も多くなってきているのだそう。マタンサは確かに残酷ではあります。でもベジタリアンでない限り誰かがやらなくてはならない作業です。私達が生きる為に必要な動物の犠牲に感謝しながら、美味しく食べる事が必要だと思いました。

 

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