スペイン料理の最大の魅力は郷土料理の豊富さです。スペイン在住20年以上のフードライターがおすすめする、地方色豊かな珍しいスペイン料理。今回は、その土地でしか食べる事の出来ないスペインの珍味だけを集めました。基本的なスペイン料理に関しては、別記事で詳しくまとめてあります。
カディスの沿岸部特有のイソギンチャク料理

スペイン南部アンダルシア地方のカディスを中心とした沿岸で、良く目にする料理がイソギンチャクのフライ、オルティギジャス・フリタス (Ortiguillas fritas)。昔はスペイン南部の海岸線限定で味わえた珍味だったのですが、近年は結構色々な場所で見かけます。
とは言っても内陸部では絶対に出会う事の出来ない珍味。一緒に居たスペイン人が「こんなん食べるのムリムリ」みたいな感じになっていたので、一般的にはゲテモノ系だと思います。でも日本人なら普通に大好きな味。究極の磯の味です。
イソギンチャクって毒なかったっけ?と疑心暗鬼で口に入れたら、サクッの後にプニュっとなって磯の香がブワッと口中に充満します。もう本当にブワッて感じ。その後にはウニのようなクリーミー感溢れる旨味がやって来ます。
大いなる海を食べている感じで、驚愕する美味しさです。ビールのおつまみに最強の珍味。触手に毒針があるらしいのですが、加熱することで無害化するのだそう。
緑色の触手を揺らめかせるグロテスクな姿をごく偶に魚屋で見かけますが、かなり本当にエグイ容姿をしているので、デリケ―トな方は食べ物のフライになる前の姿は目に入れない方がいいかも。昔、日本の有明海沿岸で食べたイソギンチャクと同じような味がしたので、種類が一緒かもしれません。
2026年現在、アジア由来の海藻が爆発的に繁殖し、オルティギージャの生息する岩礁地帯を覆い尽くしています。これにより、在来種の生息域が奪われ、漁獲量が激減。一部の海域では禁漁措置が取られており、レストランでの価格はかなり高騰しています。
近い未来に食べることができなくなることも想定し、早めに試しておきましょう。本当に美味しいです。
バルセロナで一番愛されている郷土料理

バルセロナを中心としたカタルーニャ地方、特にタラゴナ県バイスを代表する郷土料理がカルソッツ (Calçots)。12月から3月までの期間限定の料理で、バルセロナ近郊で栽培される独特のネギを炭火で焼き、外側の焦げた部分は捨て中のトロトロした部分だけを食べます。
カルソッツは都心のレストランでは見かけない料理で、郊外のカルソッツ専門レストランで食べます。バルセロナの人達はカルソッツ大好き人間なので、週末になるとこぞって職場の人達や仲間同士を誘い合って出かけます。
バルセロナの人達は毎年本当にカルソッツのシーズンを心待ちにしているので、レストランの予約を取るのがとても難しい。バスを借りて大人数でカルソッツを食べに行くグループが多いので、団体さんの予約が優先されます。少人数だと予約すら受け付けて貰えない事があり、色々とハードルが高い料理です。
食べる事が出来るシーズンや場所が限定されていて、レストランの予約を取るのがとても難しい。更にはカルソッツ用のネギは生産量が少ないのに、バルセロナ周辺の人達だけで消費されてしまうので県外に全く出回らない食材です。バルセロナ周辺で、限られた期間にしか食べることの出来ない料理。だからこそ、運よくカルソッツを食べる事が出来たのなら、有難みを持って食べましょう。
ただの焼きネギでしょ、なんて言わないで下さい。驚愕の美味しさです。糖度が極端に高いネギ自体の美味しさも普通じゃないし、ネギにつけるロメスコソースも絶品です。スペインで一番美味しい野菜料理と言えるのではないでしょうか。カルソッツに関しては別記事で詳しく解説しています。
アストゥリアスで一番人気のスペイン料理

スペインはどの地域も美味しいのですが、中でもイチオシなのがスペイン北部のアストゥリアス地方。海と山の幸を上手に使うのが特色です。何を食べても美味しいのですが、絶対食べなくてはならない料理がカチョポ (Cachopo)です。
薄く伸ばした牛肉で生ハムとチーズをはさんで揚げた食べ物。登場すると、まずはその大きさにびっくりします。とてもインパクトあるボリュームで、大人2人でも食べきれない程。アストゥリアス地方の食べ物は何でも大きいのですが、カチョポの大きさは尋常じゃないと思います。
大きいだけでなく、勿論美味しい。牛肉、生ハム、チーズ、材料の全てがアストゥリアス地方の名産品です。地元の特産物を惜しげなく使って作るカチョポ。地元の人達からとても愛されている料理で、沢山のカチョポ愛好会が存在しています。
特に重要な役割を果たすのが牛肉。アストゥリアスの渓谷で放牧され、母乳と牧草で育てられた在来種(Asturiana de los Vallesなど)に限られます。月齢や肥育環境も厳格に管理されており、その肉質は赤身の旨味が強く、脂がしつこくありません。この「強い赤身」こそが、チーズや揚げ油の重厚さを受け止め、巨大なカツレツを最後まで食べさせるバランスを生み出しています。
カチョポ専門レストランも多く、一番美味しいカチョポを決めるコンテストなども毎年開かれています。近年はアストゥリアス地方以外でも人気となり、スペイン各地で食べることが出来るようになりましたが、本場アストゥリアス地方の美味しさには届きません。
アンダルシアの禁断の郷土料理

かつてスペイン南部アンダルシア地方の名物だった料理が、稚魚のフライ、チャンケーテス (Chanquetes) です。しかし、スペインでは1988年に乱獲による資源枯渇を防ぐ為、魚の稚魚を獲る事が法律で禁止されました。
特にアンダルシア地方のマラガ県では、昔から食され愛されてきた食べ物だっただけに、地元の人達は大いに嘆き悲しみました。そんな中登場したのが、なんちゃってチャンケーテスです。
違法でありながら、レストランのメニューに堂々と記載されているのは、中国産の輸入稚魚だから。しかし、チャンケーテスの名で売られていても、マラガの人達が古くから愛でてきたチャンケーテスとは魚の種類が異なります。
中国産の稚魚は淡水魚なので、味が薄くとても水っぽいです。本物のチャンケーテスのような独特の磯の香がしません。とは言え、違法になってしまったからには、代用品で我慢せざるを得ないのです。現在は本当のチャンケーテスの味を知る人の方が少なくなりつつあるので、今後は中国の輸入品の味が正式な味になっていくのかもしれません。
ムルシア地方だけのスペイン料理

スペインのムルシア地方でしか食べられない郷土料理が、ミートパイ、パステル・デ・カルネ・ムルシアーナ (Pastel de carne murciana) です。サックサクのパイ生地の中に牛肉のミンチ、生ハム、ソーセージ、茹で卵、オリーブの実などが入ってます。
個人的に世界で一番美味しいミートパイだと思います。何で他の地域で販売してくれないのでしょうか。ムルシア特有の珍しい食材を使っている訳ではないので可能なはずです。余りにもサクッサクでパリパリのパイ生地が、門外不出の企業秘密なのかもしれません。
ビールのお供に最高のパイです。エストレージャは全国で展開している大手ビールメーカーなのですが、地方限定のビールも出しています。緑色のラベルだったらムルシア限定のビール。相性が抜群なので是非セットで楽しんで下さい。
おすすめはムルシア市内にあるボナチェのパステル・デ・カルネ。時間によっては行列ができているので直ぐ分かります。並んででも必ず食べましょう。絶対に。
ガリシア地方特有のスペイン料理

スペイン北部ガリシア地方を訪れたら、絶対に食べて欲しい食材がガリシアのエイ、ラジャ・ア・ラ・ガジェガ (Raya a la gallega) です。エイはとても難しい食材で、鮮度が落ちるとアンモニア臭が強くなります。そのため、鮮度が命の魚なので、港から離れた場所ではあまり食べる事が出来ません。
エイは軟骨しかないので、小骨の心配をしなくていいのも最大の特徴。子供やお年寄りに大人気の食材です。エイは本当に面白い食材で、柔らかく、魚なのに魚っぽくないプルプルした食感で、クセのない美味しさです。
食材のエイ自体が美味しいのですが、ガリシア地方特有のオレンジ色のソースが最高に美味なのです。ガリシア地方特産のパプリカパウダーと豚のラードで作ります。ガリシア風エイに関しては、別記事で詳しくまとめました。
エイは酸味の効いた白ワインと合わせるのが必須です。特にリアス・バイシャスの土着品種であるアルバリーニョ(Albariño)との相性が抜群です。
バレンシア地方の名物料理

スペインと言えばパエリア。その世界的にも有名なパエリアを、米ではなくショートパスタで作った料理がフィデオワ (fideua)です 。パエリア同様、バレンシア地方発祥の郷土料理で、ニンニクがたっぷり入ったアリオリソースと一緒に食べます。
フィデウアの起源はバレンシア州ガンディアです。船の料理番が、売り物にならない魚貝類を使ってパエリアを作ろうとした際に米を切らしていた事に気付きました。そこで米の代わりにパスタをポキポキと折って使ったのが始まりなのだそう。
フィデオアはこれまで紹介してきた料理ほど珍味ではないのですが、本当に美味しいフィデウアを見つけるのが難しいです。名実共にスペインを代表する料理であるパエリアも同様で、特に観光客が多い土地だと、本場バレンシアであってもひどい味のものしか食べる事が出来ません。
特にフィデウアは、味だけでなく麺のタイプも重要です。発祥の地ガンディアのフィデウアは中太の麺を使用しますが、私的には極細タイプが断然美味しいと思います。レストランによっては、茹で過ぎたパスタのようなひどい代物もあります。
フィデオアもパエリアも、エビやムール貝などの具が沢山のっている方が美味しそうに見えますが、究極にオイシイのは具が殆どない、でも出汁の効いたバージョンだと思います。頑張って本当に美味しいフィデウアを見つけ出して下さい。
地中海沿岸の珍味

酒飲みが泣いて喜ぶ食べ物が、スペイン版のカラスミ、ウエバ・デ・ムホル (Hueva de mujol) です。ボラの卵巣の塩漬けで、ねっとりとしていて強烈な塩気、そして強い磯の香がします。ムルシア産のものが有名で、「地中海のキャビア」と称されることも。かなり塩辛いので、甘口のシェリー酒と合わせて食べるのが一番美味しい。
ウエバ・デ・ムホルはタラ系の魚の卵を塩漬けにしてから天日で干した食べ物ですが、魚卵ではなくマグロの身を塩漬けにして作ったモハマ(Mojama) も人気が高い。いずれもスペインの地中海沿岸地方で古くから親しまれている珍味です。
珍しいアリカンテの郷土料理

アリカンテ地方のアルコイの街でしかお目にかかった事がない料理が、アビシニオス・デ・アルコイ(Abisinios de Alcoy)、卵のフライです。卵の上にグラタンソースをのせてフライにした食べ物。
とても美味しいのですが、白身が半熟で、どうやって作っているのかが謎です。作り方を聞いても、絶対教えてくれない門外不出のレシピ。アルコイの街を代表する郷土料理ですが、アルコイの人達も作り方を知りません。
アルコイでは毎春、世界的に有名なイスラム教徒とキリスト教徒の祭が開催されます。この日に絶対食べなくてはならない郷土料理なのですが、お店によってはただの茹で卵のフライだったりするので当たり外れが大きい。見極めましょう。
カタルーニャ地方の名物料理

カタルーニャ地方を代表する郷土料理が、干し鱈のマリネ、エスカリヴァダ・デ・バカラオ (Escalivada de Bacalao) です。場所によってはエスケイシャーダ(Esqueixada)と呼んだほうが通じるかも。干しタラが一番有名ですが、他にも色々な食材を使ってマリネにします。
フランスとの国境近くの漁村で食べたエビのエスカリヴァダが最大に至福の味でした。スペイン人は魚介類を生で食する習慣がなかったのですが、近年の日本食ブームが定着し、良く見かけるようになりました。
エスカリヴァダは日本人にはドンピシャリの味だと思います。ホタテ貝のエスカリヴァダを食べた事のある人が、興奮してその素晴らしさを説いてくれました。もし見つけたら是非ご一報下さい。何なら一緒に食べにいきましょう。
スペイン料理を極める
スペインに20年以上住み続けていても、未だ新しい味に出会う事の出来るスペイン料理の奥深さ。別記事でライフワークとしてスペイン料理の辞書を作成しています。今のところ170品。今後更に品数を増やしていくつもりです。






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