キューバでホームステイ① 乗り合いバスに乗ってキューバの洗礼を受ける
2021/05/28
スペイン在住のフードライターが世界中で素敵な人達に出会いながら、世界中を食べ尽くす旅に出ました。2か月滞在したキューバは、80カ国以上を旅した私にとっても今だ色あせる事のない強烈な国でした。キューバはどんどん変化しています。だからこそ今、全てが変わってしまう前に絶対訪れてもらいたい国。世界ホームスティ紀行。今回は驚きとハプニングと問題だらけ、でも何処よりも人間的で温かい色鮮やかなキューバ編です。
キューバの洗礼その1 あっちの方にある橋の下が乗り場だよ
友達の家にホームスティする為にキューバの首都、ハバナに降り立った。友達の実家まで観光客用のバスで行くと2時間かかり15ユーロする。でも現地の人が利用する乗り合いトラックに乗れば6時間かかるけど1ユーロで行ける。
少し迷った。不安でもあった。一人だし、初めての国だし。安さも魅力的ではあったけれど、私は本当のキューバを見たいと思っていた。だから決心して乗り合いトラックで行く事を決めた。でもこれが予想以上に強烈だった。
まずバス停というものがない。首都ハバナの街の外れにある、住所の無い空き地に行かなければならない。
「バス停は何処ですか?」
私が得た情報は方角「あっちの方」と場所「橋の下の空き地」のみである。
でも「乗り合いトラック乗り場」というのは人々の間に浸透していたので、何人かの人に聞きながら辿りつく事が出来た。20人位の人に聞いて2時間かかったけど辿りつく事が出来た。
キューバの洗礼その2 どこからどう見ても家畜運搬用のトラックに乗る
大きな空き地には沢山のトラックが止まっていた。行き先を告げると、あそこに止まっているトラックがそうだと言われた。どの角度から見ても家畜運搬用のトラックが私を待ち構えていた。
シートは勿論無い。でも長い板が両脇に取り付けられていて座れるようになっている。 既に沢山の人達が座っていて席はない。
6時間立ちっぱなしは辛そうだから運転手に次のトラックの発車時刻を聞いた。分からないと言われた。ならばこのトラックは何時出るのかと問うと、分からないと言われた。
何か問題があるのかと聞けば、何も問題はないと答える。つまり、それは、ストライキというものか、と尋ねれば、働く気はまんまんだと言われる。ではトラックを発車させる条件とは何なのか、と問いただせば、満員になったら発車するとのこと。
この空き地にたどり着くまで既に2時間以上を損失している。いくらキューバは安全だと言われていても初めての土地には日が暮れるまでには到着したかった。しょうがない。私は覚悟を決めて、満員のトラックの中へ足を踏み入れた。
キューバの洗礼その3 外国人は私だけ、まさにエイリアン
ワイワイ、ガヤガヤしていたキューバ人達が、私の顔を見た途端静かになった。全視線を浴び戸惑い、いたたまれない気持ちで取りあえず奥の方へ足を進めた。
その間もトラックの中は静まり返っていた。 席が無いのでトラックの床に座る。すると目の前に居た家族達が、無言でギュギュッと詰めて私の席を作ってくれた。
色々と初めてのシチュエーションだらけでどうしていいか分からない。とりあえず「ありがとう」と言い「どういたしまして」と返されるが、そこから先何を話していいか分からない。
気まずかったので黙ってジッとしていたら、陽気なキューバ人達は再びワイワイ、ガヤガヤしだした。
乗り合いトラックには窓があるが窓ガラスがない。少し肌寒かったのでリュックからジャケットを取り出そうとした。するとあんなに騒いでいたキューバ人達がさっと静かになった。
痛い程の視線を浴び、この状況でリュックを開けるのは避けた方がいいと判断した。なので中腰にはなったけれど再び席に座り直す。私が定位置に戻ると車内は再び活気を取り戻した。
暫くして窓の外でも眺めようかと少し動いた。すると車内が再び息をのんだかのように静かになった。何だか楽しくなって、じっとする、動く、を繰り返してみた。自分がオーケストラの指揮者になったような気がした。
キューバが私を受け入れてくれた瞬間
どんどん人が増え、床さえも座っている人達でいっぱいになった。でもトラックは一向に動き出さない。発車したのは3時間後。乗車率120%のギューギューさ加減だった。
走り出してからも乗り合いトラックは思いがけない場所で停車する。空き地、誰かの家の前、線路の脇。そして停車する度に人だけでなく色々な物が積み込まれた。
出発した時点で既に乗車率マックスだったので、停車する度に皆してああだこうだと荷物と人の移動をする。初めは黙ってそれを観察していた。でも回を重ねる度にストレスが溜まっていった。人や物が多すぎるからではない。キューバ人、テトリスが下手すぎるのだ。
私は終に立ち上がった。
「ここの角まだ袋入るよ。それはあっちの隅。」
「これ重いから下に置いて、その袋はあっち。」
「ニワトリそっちじゃない、ジャガイモの上」
的確に指示を出し続けた。不可能を可能に変える東洋の魔女、私。トラックが止まる度に私はキューバ人の信用を勝ち取っていった。
初めは遠巻きに、恐る恐る私を観察していたキューバ人。テトリスが起こした奇跡。心の扉を開いて私を受け入れてくれた。 大丈夫、この国でも生きていける。私はそう確信した。 つづく