エジプトの有名な観光地スエズ運河に関する全て、スエズ運河と海賊、スエズ運河の仕組み
2023/07/29
人類が成し遂げた偉業の一つとされるスエズ運河は、全長193キロ、幅205m、深さ24mを誇る世界最大の人工運河です。スエズ運河クルーズで働いていた時に見聞きした、博識なガイドさんのスエズ運河にまつわる全ての情報をまとめました。
スエズ運河が出来るまで
スエズ運河が地中海と紅海を結んだ事で、ヨーロッパとアジアの間をアフリカ大陸を廻る事なく行き来できるようになりました。航海距離を半分近く短縮する事が出来るスエズ運河の開通は、ヨーロッパの人達にとって長年の夢でした。ヨーロッパの人達だけに限りません。
昔から地中海と紅海を繋ぐ事は商業的、そして軍事的に重要とみなされていました。そんなスエズ運河の重要性に気づき、ナイル川を利用して地中海と紅海を最初に繋げた人は紀元前600年頃の古代エジプトの王ファラオ。そんなにも昔から、スエズ運河の原型が出来ていた事に驚きます。
しかし王朝の後退などで放置され、せっかく作られた運河が土砂などですっかり埋まってしまいました。その後何度も再建が試みられたのですが全て失敗。しかし終に1859年、10年の歳月を費やし、フランス人のレセップス氏の手によってスエズ運河が完成しました。
スエズ運河の航海はゆっくり注意深く
スエズ運河を通過するには12時間から18時間もの航行が必要です。なぜ、これほど時間がかかるのか。距離が長い事より速度制限が大きな理由で、時速にして15キロメートル、駆け足程度の速さで進まなければならないからです。
スエズ運河のほとんどの部分が砂漠地帯を突っ切っています。ゆっくり進まないと運河の脆い砂壁が船が作る波によって侵食されてしまいます。近年もスエズ運河で大型タンカーが立ち往生したニュースがありました。どんなにゆっくり注意深く進んでも、一筋縄ではいかないのがスエズ運河なのです。
スエズ運河の仕組み
地中海と紅海は海水面の水位が殆ど同じなので、スエズ運河はどちらの方向にも航行する事が可能です。ただし、土地柄石油タンカー等の超大型船舶の通行が多いので、世界最大級を誇る運河とは言え一方通行で運営されています。
10から15隻の船団を組み、ゆっくりと時間を分けて縦一列で航行します。そして、スエズ運河内にはバイパスと呼ばれる複線区間が5か所あるので、そこを上手く利用して両方面への通航を可能にしているのです。
スエズ運河とソマリア沖の海賊
世界的に有名なスエズ運河は、多くの人達が訪れる観光スポット。見るだけでなく航行してみたいと思う人が多く、スエズ運河クルーズはとても人気が高いです。中でも一番の憧れは世界一周クルーズの大型客船でスエズ運河を渡る事ではないでしょうか。
しかしスエズ運河、大きな問題を抱えています。ソマリア沖の海賊の脅威です。1990年のソマリア内戦が始まった頃から目立つようになり、スエズ運河を経由する航行者に大きな打撃を与えています。ソマリア沖の海賊たちは船を襲い物を強奪するのではなく、船員の身柄を拘束し身代金を要求します。
海賊団が5つ程存在し、武装した1000人以上のメンバーで成り立ちます。船の扱いに詳しい元漁民、火器の扱いに慣れている元兵隊などもメンバーに含まれているので、かなり組織力ある強力な海賊団を形成しているのだそう。今の時代に海賊だなんて何だか現実味が無く、最初に聞いたときは冗談かと思いました。
海賊は大型客船を狙わない
クルーズ船のキャプテンが海賊について詳しく説明してくれました。「ソマリア沖の海賊は本当に危険です。スエズ運河を航行する事は、リスクの伴う行為である事を常に意識しなければなりません。ただ海賊達は基本的に率先してクルーズ船を狙う事はありません。
人質とは死んでしまっては意味がありません。私達のような数千人規模の乗客がいる船を襲ってしまうと、人質が飢えない分量の食べ物や飲み物を確保するのが大変です。なので海賊達が狙うのは、食い扶持の少ないタンカーや商船、または個人のヨット。
だからと言ってクルーズ船が100%安全とは言い切れません。過去には未遂で終わりましたが、2000人近くのパッセンジャーが乗る大型客船が襲われる事件がありました。確か2017年にもシドニー発の世界一周クルーズ、104日間で600万円の豪華客船が海賊の脅威にさらされました。
どの船も防衛策として海賊の脅威がある地区では、電気の光が外に漏れないよう全ての窓を覆い、出来るだけ音を立てずに航行しています。安心材料として知ってほしいことは、何時もはゆっくり進むクルーズ船ですが、実は本気を出せばかなりのスピードが出るんです。逃げ足には自信があります。
そしてクルーたちも充分な海賊対策の訓練を積んでいます。海賊船になんて負けませんので安心して下さい。」そう言って朗らかに笑ってくれたので、若干不安になっていた気分が楽になりました。さすが船長です。
マニアでなくても軍艦ウォッチング
幸いな事に一時期のピーク時に比べ海賊の出没は激減しています。しかし、危険が無くなった訳ではありません。そしてそんな不安があるからこそ、スエズ運河クルーズには特定のマニアの人達が乗船するようになりました。軍艦マニアの人達です。
多発する海賊の被害から自国の貿易船を保護する目的で、各国が軍艦をソマリア沖に派遣しています。アメリカ、ヨーロッパ、そしてアジア、日本からは自衛隊の戦艦がスエズ運河周辺を航行する船を交代で護衛しています。
日頃、動いている軍艦を間近で見る機会なんて滅多にないと思うので、軍艦マニアでない人でも興味深い経験になるかと思います。そんな理由から戦艦が好きな方には、スエズ運河クルーズを絶対的におすすめします。
スエズ運河の通行料
スエズ運河の通行料は一隻あたり平均して2500万円。ただでさえ高額なのに、海賊問題によって護衛費や保険料なども考慮しなければならないようになったので、年々価格は上昇しています。そのため昔のように、たとえ時間はかかってもアフリカの喜望峰を迂回して航行する船舶が増えているそうです。
スエズ運河の楽しみ方
スエズ運河にはエジプトの首都、カイロからバスの乗って2時間程で到着します。少し見るだけならカイロからの日帰りでも充分可能。運河のターミナル周辺にはレストランもあるので、スエズ運河をゆったり進む大型タンカーを眺めながら食事も出来ます。
しかし可能ならば、人類の偉業であるスエズ運河をゆっくり、ゆったりクルーズをして頂きたい。高価で危険も伴うクルーズになりますが、スエズ運河周辺には高い建物や山などが存在しません。見晴らしが素晴らしく、運河沿いに果てしなく続くいかにもエジプトらしい砂漠の景色を堪能できます。
スエズ運河は砂漠だけでなく、時々街に近寄る事もあります。すると何処からかコーランの声が聞こえて、エキゾチックな街並みが見え隠れします。ゆっくり進むからこそ、色々と観察出来て本当に楽しいクルーズだと思います。
スエズ運河と日本
ヨーロッパとアジアをつなぐ世界3大運河の一つであるスエズ運河。実は日本とも深い繋がりがあります。スエズ運河に唯一かかる橋、ムバラーク平和橋は2001年に日本が無償援助して完成させました。迫力のある巨大な橋は日本とエジプトを結ぶ懸け橋として、エジプトの人達からとても愛されています。
そんなこともあり、エジプトの人達はかなりの親日家です。治安は良いとは言えませんが、エジプトにはピラミッドをはじめとした魅力あふれる古代遺跡が数多く残ります。スエズ運河を含めたクルーズで楽しむことを強力におすすめします。