トルコ流の紅茶の飲み方、トルコ人とチャイの関係、世界で異なる紅茶の飲み方
ヨーロッパ在住20年のフードライターが食に関するあれこれを語るブログ。今回はトルコのチャイ。トルコは世界で一番紅茶の年間消費量が多い国です。そして日頃私達が慣れ親しんでいる紅茶の飲み方とは、全く違った淹れ方で紅茶を飲みます。
世界で一番紅茶を飲む人種はトルコ人
人間の体の60%は水分で構成されています。でもトルコ人に限っては、水分ではなくチャイで構成されているはずです。チャイとはトルコで良く飲まれている紅茶の事。トルコの人達は1日の間に、びっくりするぐらい大量のチャイ(紅茶)を飲みます。
紅茶と言えば、まず最初に思い浮かべるのがイギリス人ではないでしょうか。イギリス人の一人当たりの年間紅茶消費量は2キロ。日本人の平均消費量が960グラムなので、イギリス人は確かに紅茶を良く飲む人種だと言えます。
トルコ人が飲む紅茶の年間消費量は3,2キロ。あまりよく知られてはいませんが、イギリス人を差し置いて世界一位の年間紅茶消費量を誇るのがトルコ人なんです。意外な国が世界一だったので、調べていて私もびっくりしてしまいました。
トルコ人が一日に飲むチャイの量
トルコ人は朝起きるとまずは直ぐにチャイを作ります。寝起きの一杯の後に朝ご飯と一緒に2杯目のチャイ。身支度を整えながら3杯目のチャイ。出かけた先で飲むのもチャイ。昼食前も食事後も勿論チャイ。偶然誰かに出会ったのなら、何はともあれとりあえずチャイ。
不思議な事にトルコでは、道で偶然ばったり知人に会う事が多いんです。誰かに会う度に必ずチャイなので、家に帰る頃には何杯チャイを飲んだのか忘れてしまう程です。それでも家に帰ったら、ほっと一息ついてチャイ。
誰かが訪ねて来れば、おもてなしのチャイ。夕食を作っている間にもチャイを飲み、夕食の間も食後もチャイ。夜眠る前にも忘れずにチャイ。こうしてトルコ人の一日は、まさしくチャイで始まりチャイで終わるのです。
トルコにいる限り外国人もチャイ漬け
トルコ人だけに限りません。トルコを旅する観光客だって、トルコにいる限りチャイ漬けになります。宿では常にチャイを振舞われ、レストランでも無料でチャイ。買い物をしていれば「チャイでも飲んで、ゆっくり見て下さい」と突然チャイが登場します。
それだけではありません。トルコ人はとても人懐っこい人種なので、ただ街を歩いてるだけで、知らない人からチャイが振舞われるんです。こんにちは、と声をかけられて、少し話をしただけで「チャイでもどう?」となり、すると何処からともなくチャイをお盆にのせたウェイターが出現します。
そしてあれよあれよという間に道端に腰掛け、一緒にチャイを飲む事になるのです。トルコでは勿論喫茶店でチャイを飲む人達もいますが、出前でチャイを取り寄せて、道端でチャイを飲む人達も多いので、お盆の上にチャイ一式を載せて、人込みの中を器用に行き来するウェイター達を頻繁に見かけます。
トルコは親日家の人達が多いので、日本人なら特にチャイを振舞われる回数が増えるのではないでしょうか。ある日、余りにもチャイを振舞われたので、好奇心から回数を数えてみました。28杯チャイを飲んでいました。
トルコのチャイを飲むグラス
人生であれほど紅茶を飲んだ経験はありません。でも不思議と苦も無く飲み続ける事が出来ました。それはチャイグラスと呼ばれるトルコの紅茶カップが、とても小ぶりに出来ているからだと思います。
耐熱性のガラスで出来ていて、容量は100mlぐらいでしょうか。チャイは人との付き合いに欠かせない大切なコミュニケーションツール。回数を沢山飲めるよう小さいカップを使うようになったのかもしれません。
普段使いではガラス製のグラスを使いますが、特別な日には銅や銀の手彫りの装飾で覆われたカップを使います。とても素敵なインテリアにもなるので、観光客から大人気のお土産にもなっています。
チャイのカフェイン量
これだけ大量の紅茶を一日に飲むとなれば、気になるのがカフェインの量。チャイはトルコ東部に位置する黒海沿岸のリゼ地方で生産されているアールグレイの茶葉を使います。農薬も添加物も使わず、カフェインの含蓄量も他の国の茶葉より断然少ない紅茶なのだそう。
トルコのチャイの淹れ方
トルコの紅茶、チャイはとても特徴的な作り方をします。まず必要なのがチャイダンルックと呼ばれる2段重ねのティーポット。素材はステンレスが今の主流となっていますが、ホーローや銅、陶器でできたものもあります。
最近では機能性を重視した電化式の保温が出来るタイプも人気が高いのだそう。2段を重ねた状態で使用しますが、下段の方が上段より大きいサイズになっています。下段に水を入れお湯を沸かし、上段には茶葉を入れます。
チャイは少量でも濃い紅茶が抽出できるので、入れる葉の量はスプーン二杯程度で十分。2段式のポットは下段のお湯が沸く間に上段で茶葉を蒸気で蒸らす事が可能です。これが香り高く美味しいお茶を入れる大切な過程となるのです。
お湯が沸いても直ぐに火は止めず、弱火にして茶葉をしっかり蒸らすのがポイントです。その後上部のヤカンにお湯を注ぎ、10分ぐらいおいて紅茶を抽出させます。かなり濃い目に紅茶を作り、飲む時に下のヤカンのお湯を足して好みの濃さに調節して飲むのがトルコ流です。
目安としてはチャイグラスに三分の二程度の紅茶を入れ、下段のお湯をつぎ足す感じです。トルコの人達はとにかく常にチャイを飲んでいるので、このチャイダンルックを弱火にかけっぱなしにしている家庭が多いのだそう。
火を止めるのを忘れて寝ちゃって、ポットを焦げ焦げにした事が3回もあるの、と豪快に笑っていたのは私のホームスティ先のお母さんでした。よくよく考えてみると、誰かの家でチャイを振舞われると、席に着くなり直ぐチャイが出てきて待った事がありません。
トルコと紅茶の歴史
歴史的に見ればトルコ人は紅茶よりコーヒーを飲む人種でした。チャイを飲むようになったのは20世紀になってから。巨大なオスマン帝国が崩壊し、コーヒーの産地であった南東部を失ってしまったせいです。
今まで慣れ親しんだコーヒーが、高価な輸入品となってしまったので、仕方なくチャイが飲まれるようになりました。現在でも喫茶店でコーヒーを飲むとしたら、チャイより4倍のお金を払わなければなりません。
トルコの紅茶の生産地
チャイの原産地であるトルコ東部の黒海沿岸部は、降水量の多い肥沃な土地が広がっています。山がちな地形は何だか日本の茶畑を見ているかのよう。とても茶作りに適していた土地なので、この地方は直ぐに紅茶の特産地となりました。質の良い紅茶が自国で作れるようになると、チャイを飲む習慣は更に急激に広まりました。
トルコの紅茶のグレード
紅茶にはグレードがあります。最近ではパッケージに紅茶のグレードを表記したものも多いと聞きます。全世界で統一された規格は存在しないので、区分は出産地によって異なりますが、そのお茶を知る大体の目安にはなります。
グレードは品質の等級を表すものではありません。葉のサイズを示すもので、大きければ良いという訳でもありません。トルコのチャイはブロークンと呼ばれる3mm前後にカットされたグレードの茶葉を使います。長く蒸らしても渋みが出にくいのが特徴で、冷めても色が濁りません。細かめの茶葉なので、短時間で強い紅茶を抽出する事が可能です。
トルコ人の紅茶の飲み方
通常ブロークンのグレードの紅茶はミルクと一緒に飲む事が多いのですが、トルコではミルク入りの紅茶を見る事はまずありません。トルコの人達はとっても甘党で、100ml前後という少ない分量の紅茶に角砂糖を2~3個入れたりします。
それを一日30杯と言われる程大量に飲むのですから、他人事ながら糖尿病が心配です。砂糖は別に出してくれるので、日本人なら砂糖なしで全く問題ないかと思います。見かけの濃さに反して、ストレートでもとても飲みやすい紅茶です。是非皆様もトルコを訪れて、体の水分をチャイに変えるほどチャイ漬けになって下さい。
トルコ式コーヒー
現在のトルコでは紅茶を主体に飲みますが、歴史的にはコーヒー文化の国です。そしてトルコ式コーヒーもまた、私達が日頃慣れ親しんでいるコーヒーとは全く別の飲み方をします。トルコ式コーヒーに関する詳細は、別記事にまとめました。