世界100ヵ国以上を食べ歩いたフードライターが、自信を持っておすすめする、美味しいギリシャ料理のリスト。ギリシャは美しいだけでなく、地中海食としてユネスコの無形文化遺産に登録されるほど美味しい国としても有名です。
序章:ギリシャの食卓を彩る「メゼ」の哲学

ギリシャ料理と言えば、メゼ (Mezze) と呼ばれる前菜的な小皿料理が有名です。ギリシャ料理の楽しさは、このメゼの存在につきると思うので、机一杯に沢山のメゼを注文して並べましょう。
ウーゾと呼ばれるギリシャ特有の強いリコールと一緒に食べるとより本格的です。沢山の種類の料理を皆で分けてワイワイ食べるのがギリシャ風。一人旅だと難しいので、宿で仲間を見つけて皆で楽しんで下さい。
【フィロクセニアの精神】
2026年の現在、世界のガストロノミー界で再評価されているのが、ギリシャの「パレア(Parea)」という文化です。これは単なる食事会ではなく、「心を許し合える仲間と人生を分かち合う時間」を指します。メゼはこのパレアの中心にあるものです。また、ギリシャ語の「フィロクセニア(Philoxenia / 異邦人への愛)」という概念も忘れてはいけません。古代ギリシャから続くこの歓待の精神は、現代のタベルナ(食堂)にも息づいています。メゼをシェアすることは、他者との境界線を取り払う儀式でもあるのです。最新の研究では、こうした共食のスタイルがストレス軽減に寄与し、地中海式ダイエットの健康効果を高める心理的要因であると指摘されています。
爽やかな衝撃:万能ソース「ザジキ」の真髄

ギリシャ料理を代表する前菜がザジキ (Tzatziki) 。キュウリを水切りヨーグルトであえた、冷たい前菜です。味付けはハーブとすりおろしたニンニク。ディップとして肉やパンと一緒に食べます。近年ザジキの人気がヨーロッパで急上昇中。スーパーでも見かけるようになりました。ギリシャ人の食卓に絶対欠かせない食べ物です。
【プロの視点:羊乳ヨーグルトの重要性】
本場のザジキの味が日本で食べるものと異なる最大の理由は、ヨーグルトの種類にあります。ギリシャでは伝統的に羊乳(または山羊乳との混合)の水切りヨーグルトを使用します。これにより、牛乳にはない濃厚なコクとわずかな酸味が生まれます。また、使用するハーブにも地域性があります。一般的なレシピではディル(Dill)を使いますが、キプロス島や一部の島嶼部ではドライミントを使用するのが主流です。2026年のトレンドとして、発酵食品としてのザジキのプロバイオティクス効果が改めて注目されており、欧米では「スーパーフード・ディップ」としての地位を確立しています。
古代からの贈り物:チーズの王様「フェタ」

ギリシャを代表するチーズがフェタ(Feta)。山羊や羊の乳で作るフレッシュチーズで、古代ギリシャ時代から食べられている、現存する世界最古のチーズです。チーズ専門店で売られているフェタは、パッと見が木綿豆腐のようで面白い。
ギュッと引き締まった固めのチーズで、食塩水の中で熟成させるので塩味が強いです。そのまま、又は色々な料理に加えて使います。各国でフェタと同様の製法でチーズを作っていますが、フェタを名乗れるのはギリシャ産のチーズだけ。
ギリシャにはフェタチーズ以外のチーズも存在しますが、ほぼほぼフェタしか食さない感じ。チーズ売り場へ行けば一目瞭然で、フェタは売り場面積の95%位を占領しています。ギリシャ人が購入するフェタチーズの大きさも凄いので注目して下さい。
【学術的補足:PDO認定と『オデュッセイア』】
フェタチーズの起源は、ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』に登場するサイクロプス(一つ目巨人)が洞窟で作っていたチーズにまで遡ると言われています。EUの原産地名称保護(PDO)規定により、「フェタ」と呼べるのは、ギリシャ本土およびレスボス島などの特定の地域で生産され、羊乳70%以上、山羊乳30%以下の比率で作られたものに限られます。牛の乳を使った安価な模造品(ホワイトチーズと呼ばれる)とは、風味の複雑さと舌触りのクリーミーさが全く異なります。2026年現在、本物のフェタの輸出量は過去最高を記録しており、特に樽で熟成させた「バレル・エイジド・フェタ(Barrel Aged Feta)」は、グルメの間で非常に高く評価されています。
素材の鮮度が命:本場の「グリークサラダ」

ギリシャでサラダと言えば一般的にホリアティキサラタ (Horiatikisalata / χωριάτικη σαλάτα) を意味します。小さくカットしたトマト、キュウリ、ピーマン、オリーブの実、玉ねぎのサラダで、フェタチーズがどーんと一枚トッピングされる事が多いです。
ギリシャではサラダは卓上に置いてあるオリーブオイルやワインビネガーなどを使って自分で味付けします。フェタチーズがかなりしょっぱいので、塩は加えない方が無難。豪華バージョンになるとゆで卵やサーディンの塩漬けなど、更に具が増えます。
【現地の常識:レタスは入れない】
「ホリアティキ」とは「田舎の」という意味です。日本やアメリカのレストランで提供される「グリークサラダ」にはレタスが入っていることが多いですが、本場のホリアティキには絶対にレタスを入れません。また、この料理の主役は実は野菜ではなく「オリーブオイル」です。底に溜まったトマトのエキスとオリーブオイルの混合液に、パンを浸して食べる「パパーラ(Papara)」という行為こそが、ギリシャ人にとって至福の瞬間とされています。使うオリーブオイルは、酸度0.8%以下の最高級エキストラバージンオイル(コロネイキ種などが有名)であることが暗黙のルールです。
大地の恵みそのもの:野生の茹で野菜「ホルタ」
ギリシャで葉っぱ系の野菜が食べたい時は、ホルタを注文しましょう。ホルタとは野草や青菜の総称ですが、料理名で使うホルタは青菜系の茹で野菜を意味します。味付けはシンプルにオリーブオイルとレモン果汁。
旬の野菜を使うので、夏はヴリタと呼ばれるアマランサスの葉である事が多いです。ビタミンやミネラルが豊富な野菜で、ほろ苦いのが特徴。ギリシャ以外の国では余り見かけない食材なので、見かけたら是非食べてみて下さい。
【長寿の秘訣:野生植物の抗酸化作用】
ホルタに使われる植物は、タンポポ(Roke)、チコリ(Radiki)、イラクサなど多岐にわたります。これら野生の葉野菜は、栽培された野菜に比べて抗酸化物質やオメガ3脂肪酸、ポリフェノールが桁違いに多く含まれています。世界的な長寿地域「ブルーゾーン」の一つであるイカリア島(Ikaria)の高齢者が元気なのは、このホルタを日常的に大量に摂取しているからだという研究結果が多数報告されています。2026年の栄養学では、この「野生植物の摂取」が最先端のアンチエイジング食として注目されています。
燻製の香りが食欲をそそる:ナスのサラダ

ギリシャ人が愛して止まないサラダが、焼きナスを使ったメリジャノサラ (Melitzanosalata) 。ナス好きにはたまらない一品で、メチャクチャ美味しいです。ギリシャだけでなくイスラム圏一帯で良く見かける料理で、作る人や食べる場所によってレシピが異なりますが、何処で食べても安心確実な美味しさです。
【調理のポイント:カプニスティ(燻製)】
最高のメリジャノサラタを作る秘訣は、ナスの皮が真っ黒に焦げるまで直火で焼くことです。これにより、スモーキーな香り(ギリシャ語で「カプニスティ」)が果肉に移ります。中東の「ババガヌーシュ」と似ていますが、ギリシャ版はタヒニ(ゴマペースト)を使わず、オリーブオイル、酢(またはレモン)、ニンニク、パセリでシンプルに仕上げるのが一般的です。地域によっては、ローストした赤ピーマンやクルミを加える「アギオレイティキ(Agioritiki / アトス山風)」と呼ばれるバリエーションも存在し、非常に美味です。
クレタ島の至宝:伝統的軽食「ダコス」
大麦で作ったラスクを水で湿らしオリーブオイルをかけ、すりおろしたトマト、フェタチーズ、ハーブをのせたサラダがダコス(Dakos)。味の決め手はケッパーで、元々はクレタ島の郷土料理だったのですが、今ではギリシャ全土で食べられるようになりました。
【食材の深掘り:パクシマディアとミチトラ】
ダコスの土台となる乾燥パンは「パクシマディア(Paximadia)」と呼ばれ、かつて羊飼いが山へ持っていく保存食でした。二度焼きされているため非常に硬く、水や油で戻す必要があります。また、クレタ島の伝統的なレシピでは、フェタチーズではなく、クレタ島特産の「ミチトラ(Mizithra)」というフレッシュなソフトチーズを使うのが正統派です。ミチトラはフェタよりも塩分が控えめで、乳の甘みが強いため、酸味のあるトマトとの相性が抜群です。クレタ島を訪れる際は、ぜひ「本物のミチトラを使ったダコス」を探してみてください。
魚卵の旨味が凝縮:名物「タラモサラタ」

魚卵とパンを混ぜたサラダが、タラモサラタ (Talamosalata / ταραμοσαλάτα)。日本でもタラコとポテトを使ったタラモサラダが市民権を得ていますが、ギリシャ料理のタラモサラタが起源だと知る人は少ないのではないでしょうか。
日本のように明太子を使わないので、本場ギリシャのタラモサラタは日本人が期待するほどピンク色ではないです。良く使われるのは塩漬けのコイの卵巣。日本のタラモサラダとは若干異なりますが、これはこれで美味しい。タラモサラタに関しては別記事で詳しくまとまめした。

【注意:本物は「白」または「ベージュ」】
ギリシャのタベルナで鮮やかなピンク色のタラモサラタが出てきたら、それは着色料を使った安価な既製品である可能性が高いです。高品質な魚卵(タラマ)を使用した本来のタラモサラタは、クリーミーなオフホワイトや薄いベージュ色をしています。ベースには、水に浸して絞った古いパンの中身(クラム)を使うのが古典的ですが、ジャガイモを使うレシピもあります。毎年、四旬節の始まりである「浄化の月曜日(Kathara Deftera)」には、国中でこのタラモサラタを食べる習慣があります。
ギリシャ料理を代表するディップ

強烈なパンチ力:スコルダリア
ギリシャ語でニンニクをスコルドと呼び、スコルダリア (Skordalia) はニンニク風味のディップの事です。レシピは色々ありますが、基本的にはじゃがいものピュレーを、ガーリック、オリーブオイル、ワインビネガーで味付けしたもの。ニンニクの効いたポテトピュレーみたいなディップです。
【伝統の組み合わせ:バカヤロ・スコルダリア】
スコルダリアは単体で食べるだけでなく、「バカヤロ(塩漬けタラのフライ)」の付け合わせとして供されるのが鉄則です。特に3月25日のギリシャ独立記念日(兼生神女福音祭)には、国中でこの組み合わせを食べる伝統があります。地域によってはジャガイモの代わりに、水で戻したパンや、クルミ、アーモンドをベースにすることもあり、ナッツベースのものは非常に濃厚で高級感があります。
ピリ辛チーズの誘惑:ティロカフテリ
フェタチーズのディップがティロカフテリ (Tirokafteri) 。フェタチーズをスモークしたパプリカパウダーやニンニクで味付けたペーストです。色々な種類がありますが、少しピンク色をしたピリッと辛いバージョンが一番美味しいです。
【大人の味わい:地域のバリエーション】
「カフテリ」とは「辛い」という意味です。基本はフェタチーズ、唐辛子、オリーブオイル、酢で作りますが、マケドニア地方など北部ギリシャではよりスパイシーな味が好まれます。2026年のモダン・ギリシャ料理店では、ここにローストした赤ピーマンのペーストを加えて滑らかさを出したり、少量のヨーグルトを混ぜてマイルドにしたりと、シェフごとの個性が光る一品となっています。パンに塗るだけでなく、フライドポテトのディップとしても最高です。
甘じょっぱさの黄金比:フェタ・ミー・メリ
フェタチーズを薄いパイ生地で包んで焼き、ハチミツをかけたのがフェタ・ミー・メリ (Feta me meli) 。前菜なのかデザートなのか良く分からない料理ですが、美味しいからどっちでもいいです。ハチミツの甘さとフェタチーズのしょっぱさが見事にマッチした素晴らしい一品。
【歴史的背景:古代からの系譜】
この料理には、白ゴマや黒ゴマをまぶして焼くスタイルが多く見られます。チーズと蜂蜜の組み合わせは、古代ギリシャ時代から「美と力の源」として愛されてきました。特にテッサリア地方やクレタ島など、蜂蜜とチーズの両方の生産が盛んな地域で発展しました。使用される蜂蜜は、濃厚な香りの「タイム(ハーブ)の蜂蜜」がベストとされています。熱々のフェタが溶け出し、冷たい蜂蜜と絡み合う食感のコントラストは、まさに美食の極みです。
アツアツを頬張る:ギリシャ風チーズフライ

サガナキ (Saganaki) は小さなフライパンを意味し、小さな鉄鍋に油をしき、チーズ入れて泡立つまで溶かし、レモン汁とコショウで味付けした料理の事です。お店によってはスライスしたチーズに小麦粉をまぶしてフライにしたものをサガナキと呼んでいる所もあります。
【チーズ選びの極意:ケファログラヴィエラ】
「サガナキ」という料理名ですが、実は使うチーズによって味が全く異なります。一般的に、熱しても溶けすぎず形を保てる硬質チーズが選ばれます。最も美味しいとされるのは「ケファログラヴィエラ(Kefalograviera)」や「ケファロティリ(Kefalotyri)」といった塩気の強い羊乳チーズです。これらは焼くことでナッツのような香ばしさが引き立ちます。近年、北米のギリシャ料理店で流行している「テーブルでフランベ(炎を上げる)するサガナキ」は、実はシカゴのギリシャ移民が考案したもので、ギリシャ本国ではあまり見かけないパフォーマンスです。
ブドウの葉に包まれた小宇宙:ドルマ

ドルマ (Dolma / ντολμάς) とは、ブドウやキャベツの葉で肉や米などのフィリングを包んで煮込んだギリシャ特有と言うか、トルコやバルカン半島で良く食べられている料理。肉入りはメイン料理、肉が入らないバージョンは冷たいままでオードブルとして食べます。
4月から5月の間は、生の葡萄の葉を使ったドルマを食べる事ができます。ブドウの葉は柏餅の葉みたいな歯応えがあって美味しい。他の季節だと酢漬けの葉を使うので、かなり酸っぱいバージョンになります。生の葉バージョンが最高に美味しいので、シーズンを狙って下さい。
【用語の整理:ドルマデスとドルマダキア】
一般的に、肉が入った温かいメイン料理サイズを「ドルマデス(Dolmades)」、米とハーブのみで冷菜として食べる一口サイズを「ドルマダキア(Dolmadakia / ヤランジ)」と呼び分けます。ドルマダキアには、「アヴゴレモノ(卵レモンソース)」ではなく、濃厚なギリシャヨーグルトを添えて食べるのが現代風です。ブドウの葉(アンベロフィラ)に含まれるポリフェノールと食物繊維にも注目が集まっており、2026年のヘルシートレンドに合致した伝統食と言えます。
冬の味覚:ラハノドルマデス
ギリシャ風ロールキャベツをラハノドルマデス (Lahano Dolmades) と呼びます。ひき肉に米を混ぜ、白っぽいソースのアヴゴレモノと一緒に食べます。アヴゴレモノソースは出汁に卵とレモン汁を加えて攪拌して作るソースで、ギリシャをはじめ周辺各国でもお馴染みの美味しいソースです。
【季節の料理:クリスマスの定番】
日本ではロールキャベツは一年中食べられますが、ギリシャではキャベツが甘くなる冬の料理です。特に北部ギリシャでは、クリスマスの食卓に欠かせない料理とされています。キャベツの葉がキリストのおくるみを象徴しているとも言われています。使用するハーブはディルが一般的で、豚挽き肉と米のバランスが家庭の味を決めます。
サントリーニ島の誇り:黄色い宝石「ファヴァ」
小粒の黄色い割豆のピュレー、ファヴァはサントリーニ島の有名な郷土料理。今ではギリシャ全土で食されていますが、本当の味は火山灰質の土壌で育つサントリーニ島産の豆を使わないと出せないとされています。豆をドロドロになるまで煮て、レモン汁とオリーブオイルで味付けます。シンプルだけど美味しい豆料理
【PDO認定:サントリーニ・ファヴァの希少性】
「サントリーニ・ファヴァ」はEUの原産地呼称保護(PDO)を受けています。実はこの豆、そら豆ではなく、「レンズ豆(Lathyrus clymenum)」の一種です。3500年以上前からこの火山島で栽培されてきました。現地では、刻んだ玉ねぎ、オリーブオイル、そしてサントリーニ特産のケイパー(ケッパー)をトッピングして食べるのが流儀です。火山性土壌が育む独特の甘みとベルベットのような舌触りは、他地域のファヴァとは一線を画します。
ハーブ香る:ギリシャ流コロッケ「レヴィトケフテデス」

ヒヨコ豆を茹でて潰してスパイスを加え、丸めて揚げた料理がレヴィトケフテデス (Revithokeftedes)。イスラム圏の国々で良く食されているファラフェルのギリシャ版です。
【シフノス島のスペシャリテ】
ファラフェルと似ていますが、決定的な違いはハーブ使いです。ギリシャ版、特にシフノス島(Sifnos)で有名なこの料理には、マジョラム(Marjoram)やミントがたっぷりと使われ、クミン中心の中東風とは異なる清涼感があります。また、ファラフェルが生の豆を戻して使うのに対し、レヴィトケフテデスは一度煮た豆を使って作ることが多いため、中がよりホクホクとした食感になります。
火山が生んだ旨味:トマトの揚げ団子
サントリーニ島の伝統料理なのですが、今では全ギリシャで食べられるようになったトマトの揚げ団子が、トマトケフテデス (Tomatokeftedes) 。生のトマトを使う事が多いのですが、本来はドライトマトで作ります。ドライトマトの方が味がギュギュっと凝縮していて美味しい。
【水なし農法の賜物】
サントリーニ島のトマト(Tomataki Santorinis)は、雨の降らない過酷な環境で、空気中の湿気だけで育つ「アニュドロ(Anydro / 水なし農法)」で作られます。そのため、皮が厚く、糖度と酸味が極限まで凝縮されています。このトマトを使うからこそ、揚げても水っぽくならず、濃厚な味わいになります。現地ではスペアミントをたっぷりと混ぜ込むのが定石です。2026年現在、気候変動への適応作物として、この「水なしトマト」の栽培技術が世界中で研究されています。
フワトロ食感:ギリシャ風ズッキーニの揚げ団子
トマトではなくズッキーニを使って作る揚げ団子がコロキケフテデス (Kolokithokeftedes) 。すったズッキーニをメインにフェタチーズ、玉ねぎ、ニンニク、ハーブなどを加え、溶き卵と小麦粉をまぜ成形し、油で揚げます。
【成功の秘訣:水切りとハーブ】
美味しいコロキケフテデスの条件は「カリッ、フワッ」の食感。ズッキーニの水分をしっかり絞りきることが重要です。フェタチーズの塩気と、ディル、ミント、パセリなどのフレッシュハーブの香りが一体となり、冷えた白ワインとの相性が抜群です。
北ギリシャの赤い宝石:フローリナペッパー
フローリナペッパーは、ギリシャ北部で栽培されている赤いパプリカの事です。シンプルにオーブンで焼いてオリーブオイルとワインビネガーで味付けたり、中にフェタチーズやハーブを入れて焼き上げたり、色々なバージョンがあります。
【PDO認定の甘みと香り】
西マケドニア地方のフローリナ(Florina)地区でのみ生産されるこの赤ピーマンは、PDO(原産地名称保護)認定を受けています。形が牛の角のように細長く、糖度が高いのが特徴です。10月に収穫期を迎え、街中が焼きピーマンの甘い香りに包まれる光景は、北ギリシャの風物詩です。缶詰や瓶詰めも輸出されていますが、炭火で焼いたばかりの皮を剥いて食べるフレッシュな味は、現地でしか味わえない贅沢です。
オイル煮の傑作:インゲンのトマトソース煮
インゲンとジャガイモをトマトソースで煮た料理がファソラキア・ラデラ (Fasolakia Lathera) 。ギリシャの典型的なお袋の味で、ほっこり野菜い美味しさです。ニンジン、ズッキーニなど他の野菜が加わるバージョンもあります。
【用語解説:ラデラ(Ladera)】
「ラデラ」とは「オイル(ラディ)で調理されたもの」という意味の料理カテゴリーです。ギリシャ正教の断食期間にも食べられるよう、肉を使わず、大量のオリーブオイルで野菜を煮込む調理法です。日本人の感覚からすると「油多すぎでは?」と思うかもしれませんが、野菜の脂溶性ビタミンの吸収率を高め、満腹感を与える理にかなった調理法です。食べる時は、さらに生のオリーブオイルを回しかけ、フェタチーズを添えるのがギリシャ流です。
幻の珍味:ラケルダ
カツオやマグロなどを塩で締めたものをラケルダ (Lakerda) と呼びます。厳密にはトルコ料理なのですが、ギリシャでも昔から食べられているのだそう。探し回ったのですが私は見つけられませんでした。食べた人、是非感想を下さい。
【歴史の旅:ビザンツ帝国からの遺産】
ラケルダは、かつてコンスタンティノープル(現イスタンブール)や黒海沿岸のギリシャ人コミュニティで愛された、歴史ある保存食です。現在でも、アテネやテッサロニキの古い市場(アゴラ)にある専門店や、本格的なウーゾ専門店(ウーゼリ)であれば見つけることができるといいます。特に冬の脂が乗ったカツオで作るラケルダは絶品とされ、バターのように口の中で溶ける食感が特徴です。見つけるのは困難ですが、美食家にとっては探す価値のある「幻のメゼ」です。
スパイシーな誘惑:ルカニコ
豚肉、または子羊の肉で作るギリシャのソーセージがルーカニコ (Loukaniko)。オレンジの皮で味付けし、芳香な木材で燻製にするので、爽やかな風味が特徴です。ソーセージはヨーロッパ各国で食されていますが、ギリシャのはとても個性的な美味しさなので是非試してみて下さい。
【地域ごとの個性】
ルーカニコの味は地域によって千差万別です。記事にある「オレンジの皮」入りは、ペロポネソス半島南部のマニ地方などが有名です。一方、テッサリア地方ではポロネギ(リーキ)をたっぷりと練り込んだ「プラソ・ルーカニコ」が主流です。ペリオン地方には、このソーセージとピーマンをトマトソースで煮込んだ「スペツォファイ(Spetzofai)」という有名な郷土料理があります。2026年のクラフトビールブームに伴い、ギリシャの若者の間でも最高のつまみとして再評価されています。
食事の基本:ギリシャのパン

ギリシャには色々な種類のパンが存在しますが、一番登場回数が多いのがピタパンです。丸くて中が空洞のポケット状になっている平たいパンで、焼いた肉と一緒に野菜やディップを詰めて食べます。ただギリシャでピタと言えば、このタイプの薄いパンだけでなく、パイ生地も意味するので注意が必要です。ピタの定義の範囲が広いです。
【注意:ギリシャのピタにポケットはない】
中東のピタパン(ポケットがあり、中に具を入れるタイプ)とは異なり、実は伝統的な「ギリシャのピタ」にはポケットがありません。ただ、近年はポケットのあるタイプを扱うレストランも増えています。ギリシャのピタは、少し厚みのある柔らかいフラットブレッドで、具を中に「詰める」のではなく、具を乗せて「包む(ラップする)」ために使われます。表面にオイルを塗って鉄板で焼き、オレガノを振ったアツアツのピタは、それ単体でも美味しいご馳走です。
職人技の結晶:スパナコピタ

ホウレンソウとフェタチーズが入ったギリシャ風のお惣菜パイが、スパナコピタ (Spanakopita) 。ギリシャはパイ生地のバラエティが豊かで、色々なタイプがあります。日本でもお馴染みの一般的なパイもありますが、ギリシャを訪れたからにはフィロペストリーと呼ばれる極薄のパイ生地を食べて下さい。
ギリシャだけでなく、トルコやバルカン半島などの旧オスマン帝国だった地域で良く食べられている、パリパリしたとても薄いパイ生地です。スパナコピタはホウレンソウとフェタチーズが基本ですが、豪華版だと卵、オニオン、その他色々なものが加わります。
【生地の種類:フィロ vs ホリアティコ】
ギリシャのパイ(ピタ)には大きく分けて2種類の生地があります。一つは、新聞紙が透けて見えるほど薄い「フィロ(Phyllo)」生地を何層にも重ねたもの。もう一つは、より厚みがあり、オリーブオイルを練り込んだ田舎風の「ホリアティコ(Horiatiko)」生地です。エピルス地方など山間部では、後者の厚い生地で具を包んだ、食べ応えのあるパイが名物です。また、ホウレンソウだけでなく、季節の野草(ホルタ)を使った「ホルトピタ」も、栄養価が高く人気があります。
朝食の定番:フェタチーズのパイ「ティロピタ」

フェタチーズがたっぷり入ったバージョンはティロピタ (Tiropita) と呼ばれます。スパナコピタと同じく、極薄のパイ生地のものが絶対に美味しい。クレアトピタだと中の具がひき肉、コトピタだと鶏肉になります。
【形状の面白さ:クルルとトリゴノ】
ティロピタには様々な形があります。渦巻き状に巻いたものは「クルル(Kourou)」やスコペロス島風の揚げパイ、三角形に折り畳んだものは「トリゴノ(Trigono)」と呼ばれます。ギリシャ人の朝は、街角のパン屋(フーノス)で焼きたてのティロピタを買い、コーヒーと一緒に歩き食べすることから始まります。フェタチーズだけでなく、ベシャメルソースやカセリチーズを混ぜた、よりクリーミーなバージョンも現代では人気です。
メインとなるギリシャ料理:肉と野菜の饗宴
ギリシャ正教の戒律で肉食を禁じる期間が長い事から、ギリシャでは野菜を使った料理が多彩です。1950年代までは肉を食べる事は稀で、魚介類を中心に食べていたといいます。ただ世界的な傾向で、最近では驚くほど肉食中心になっています。
世界が愛する層状の芸術:ムサカ

ギリシャで一番有名な料理がムサカ (Moussaka) 。ギリシャ全土何処ででも食べる事が出来る、ギリシャの定番中の定番料理。トマトソースで煮たひき肉を、油で揚げたナスとジャガイモで交互に挟み、最後にベシャメルソースをかけてオーブンで焼き上げます。
ポテトが入らないバージョンも多く、いずれにせよ、何処でどのようなムサカを食べても安定の美味しさでした。一番上の層はチーズより、ナツメグの入ったベシャメルソースのバージョンが一番多かったです。
【歴史のトリビア:近代化の父ツェレメンテス】
実は、現在のような分厚いベシャメルソースがかかったムサカのスタイルは、古代からあるものではありません。1920年代に活躍した伝説の料理人、ニコラオス・ツェレメンテス(Nikolaos Tselementes)が、フランス料理の技法を取り入れて完成させた比較的新しいスタイルです。彼は「ギリシャ料理の西洋化」を推進した人物で、それ以前のムサカはもっと中東寄りのシンプルな料理でした。現在では、この「ツェレメンテス・スタイル」が国民食として定着しています。2026年には、ベシャメルソースにヨーグルトを使ったり、肉の代わりにレンズ豆やキノコを使ったヴィーガン・ムサカも多くのレストランで提供されています。
野菜の宝石箱:イェミスタ

トマト、パプリカ、ピーマン、ナスなどの野菜をくり抜き、中に米と野菜、ハーブなどを詰めてオーブンで焼いた料理をイェミスタ (Yemista)、またはゲミスタ (Gemista) と呼びます。米の代わりにひき肉、または米とひき肉両方が入るバージョンもあります。
ギリシャ周辺の国では似たような料理をドルマと呼び、オーブンではなく鍋で煮て料理します。どちらも美味しいけれど、ギリシャ版の方が香ばしさが加わるので個人的におすすめです。
【孤児のイェミスタ?】
肉を使わず、米とハーブだけで作るバージョンを、ギリシャ語で「イェミスタ・オルファナ(Gemista Orfana / 孤児のイェミスタ)」と呼びます。少し悲しい名前ですが、味は絶品です。野菜の水分だけで米を炊き上げるため、野菜の旨味が米一粒一粒に染み渡ります。夏場は、冷やして食べるとより一層美味しく感じられます。付け合わせに焼いたポテトとフェタチーズがあれば、もう何もいりません。
繊細な初夏の味覚:ズッキーニの花の詰め物
ギリシャの市場では花がついたままのズッキーニが売られています。この花の部分にスパイスで味付けした肉と米を詰めて煮た料理が (Kolokythoanthoi) 。メニューにあったら絶対食べて下さい。
私が住むスペインではズッキーニの花を見た事がなかったのでとても新鮮な経験でした。イタリアでも良く食しているのだそう。春から夏が旬で、あっという間に鮮度が落ちてしまう食材なので大変貴重です。
【レスボス島のスペシャリテ】
この繊細な料理はギリシャ全土で愛されていますが、特にレスボス島やクレタ島で名物となっています。花びらは非常に破れやすいため、作るには熟練の技術が必要です。中身は米とたっぷりのハーブ(ディルやミント)、そしてチーズが入ることもあります。フワフワとした食感と花のほのかな香りは、まさに食べる芸術品です。
ギリシャ風ラザニア:パスティチオ

ギリシャの伝統的な家庭料理がパスティチオ (Pastitsio) です。太目のマカロニ、ひき肉、ベシャメルソースを層にしてオーブンで焼いた、ムサカのマカロニバージョンみたいな料理。まぁ普通に美味しいけど私だったら絶対にムサカを食べます。
【専用パスタの秘密】
パスティチオには、ストローのように太くて長い穴あきパスタ(No.2パスタなどと呼ばれます)を使うのが必須です。このパスタを綺麗に整列させて並べることで、切った時の断面が美しくなり、ソースが中まで絡みます。シナモンとナツメグの香りが効いたミートソースと、分厚いベシャメルソースの層は、子供から大人まで愛される「コンフォート・フード(癒やしの味)」の代表格です。
炭火の香ばしさ:スブラキ

ギリシャ風肉の串焼きバーベキューがスブラキ (Souvlaki) 。スパイスを効かせた豚肉や鶏肉などの肉を炭火で焼きます。ギリシャはトルコの影響を強く受けているので、イスラム圏に近い食文化を持ちます。でも豚肉を禁じられたイスラム教ではないので普通に食べる、というかむしろ好んで食べています。
【アテネとテッサロニキの呼び方の違い】
面白いトリビアとして、同じ串焼きでも地域によって呼び方が異なります。アテネ(南部)では、串焼き単体を「カラマキ(Kalamaki / 小さな葦)」と呼び、ピタパンで巻いたものを「スブラキ」と呼びます。一方、テッサロニキ(北部)では、串焼き単体を「スブラキ」と呼び、ピタで巻いたものは「サンドイッチ」と呼びます。この違いを知っていると、現地のオーダーで混乱しません。どちらにせよ、オレガノとレモンをたっぷりかけるのがギリシャ流です。
地中海の恵み:新鮮な魚介類
地中海に面しているので、新鮮な魚介類もギリシャ料理の大きな魅力です。ガブロス(イワシ)、カラマーリ(イカ)、クタポディ(タコ)を中心に、焼いたりフライにしてレモンを絞って食べます。シンプルだけど、シンプルだからこその美味しさです。
【タコの日干しと量り売り】
ギリシャの港町に行くと、タコがロープに吊るされて天日干しされている光景をよく見かけます。これは単なるディスプレイではなく、太陽光で水分を抜き、旨味を凝縮させて柔らかくするための伝統的な知恵です。これを炭火で焼いた「オクタポディ・プシト」は、ウーゾとの相性が世界一と言っても過言ではありません。魚料理を注文する際の注意点として、メニューに記載されている価格の多くは「1キログラムあたりの値段」です。注文前に魚を選んで重さを量ってもらい、総額を確認するのがトラブルを避けるコツです。
食べ応え満点:巨大インゲン豆のオーブン焼き

大きな白インゲン豆をトマトソースで煮込んだ料理がGigandes plaki。少しスパイシーな味がします。前菜で食べる場合は冷たく、冬はアツアツを食べます。(γίγαντες πλακί)
【北の湖からの贈り物:プレスペス豆】
「ギガンテス(巨人)」と呼ばれるこの巨大な豆は、北ギリシャのプレスペス湖(Prespes Lakes)周辺の名産品で、PDO認定を受けています。この地域特有の微気候が、皮が薄くて煮崩れしにくく、バターのように滑らかな豆を育てます。「プラキ」とは、野菜と油とソースでオーブン焼きにする調理法を指します。ディルやセロリの葉をたっぷり入れて香りを出すのが本格的なレシピです。
国民的ファストフード:ギロピタ

ギリシャを代表するファーストフードで、小腹が空いた時に食べます。他の国ではケバブと呼ばれていますが、ギリシャではギロス (Gyros) と呼ばれる薄切り肉をピタパンで挟んで食べるので、ギロピタと呼ばれています。
ギリシャはイスラム圏ではないので、価格の安い豚肉や鶏肉を使う事が多いです。スライスした肉に、レタス、トマト、玉ねぎなどの野菜を添え、ギリシャ定番のヨーグルトソース、ザジキをたっぷりかけます。
【ギロス(回転)の意味】
「ギロス」とはギリシャ語で「回転」を意味します(ジャイロスコープと同じ語源)。垂直のロースターで回転させながら焼いた肉を、薄く削ぎ落として使います。面白いことに、ピタの中にフライドポテトを一緒に巻き込むのがギリシャの標準スタイルです。炭水化物×炭水化物ですが、ザジキの酸味が全体をまとめ上げ、驚くほどペロリと食べられます。2026年は、キノコを使ったヴィーガン・ギロスも人気急上昇中です。
ギリシャ流ハンバーグ:ケバブ

ギリシャでケバブ (Kebab) と言えば、日本でお馴染みのケバブではなく、ひき肉を使ったハンバーグを意味するので注意が必要です。スパイスが沢山入っているので、ソースなど必要ありませんが、ヨーグルトのソースとの相性が抜群です。
【ヤウルトル・ケバブの魅力】
ケバブの中でも特に人気なのが、「ヤウルトル・ケバブ(Giaourtlou Kebab)」です。これは、焼いたケバブをピタの上に乗せ、トマトソースとヨーグルトをたっぷりとかけた料理です。小アジア(現トルコ)からのギリシャ難民が伝えた料理で、スパイシーな肉と冷たいヨーグルトのハーモニーは絶品です。
お弁当の定番:ケフテス

ギリシャ風ミートボールをケフテス (Keftethes) と呼びます。普通に美味しいのですが、ギリシャ料理は前菜にある肉を使わないトマトやズッキーニのケフテスが豊富で美味しいので、私だったらそちらをメインに食べます。
【揚げたてと冷めた味】
ケフテスにはスペアミント(Diosmos)をたっぷりと入れるのがギリシャ流のレシピです。揚げたては外がカリッとして美味しいですが、冷めても味が落ちないため、ビーチへのピクニックや子供のお弁当の定番メニューとなっています。家庭ごとに「お母さんの味」があり、ウーゾのおつまみとしても最強の一角です。
土鍋の魔法:ユーヴェッツィ

ユーヴェッツィ (Youvetsi) はギリシャの伝統的な家庭料理で、牛肉をトマトなどで煮込み、パスタを加えたもの。一般的に土鍋で作られます。肉は牛肉だけでなく、鶏肉、豚肉、羊肉、何の肉でも大丈夫。肉のシチューとパスタの組み合わせなら全てユーヴェッツィと呼ぶのだと思います。
【米粒パスタ:クリサラキ】
この料理は、「クリサラキ(Kritharaki)」または「オルゾ」と呼ばれる米粒の形をしたパスタと一緒になっているのが基本です。土鍋(これもユーヴェッツィと呼ばれます)の中で、肉の旨味たっぷりのソースをパスタが吸い込み、少し焦げ目がつくまでオーブンでじっくりと調理されます。日曜日の家族の昼食(Kyriakatiko trapezi)の主役として、長年愛されているご馳走です。
ギリシャ料理のスープ:魂を温める一杯
ギリシャの国民食:ファソラーダ
ギリシャの伝統的な白インゲン豆のスープがファソラーダ (Fasolada) 。ギリシャ人の家庭の食卓に登場する回数が大変高い料理で、種類の異なる豆を使うのが特徴。トマト、ニンジン、玉ねぎ、セロリなどが入ります。
【「貧者の肉」から国民食へ】
ファソラーダは、しばしば「ギリシャの国定料理(National Dish)」と称されます。かつて肉が高価だった時代、豆は貴重なタンパク源であり「貧者の肉」と呼ばれました。調理の最後に最高級のオリーブオイルをたっぷりと回しかけることで、スープが乳化(エマルジョン)し、トロリとした濃厚な味わいになります。フェタチーズとオリーブの実、そしてアンチョビを添えて食べるのが正式なスタイルです。
滋味深い味わい:レンズ豆のスープ「ファケス」

レンズ豆で作るスープがファケス (Fakes) 。ギリシャ料理を代表するスープで、家庭料理の定番です。レンズ豆のスープは各国で食されていますが、ギリシャのはケッパーが入るのが特徴。食べる直前にオリーブオイルをふりかけて食べます。
【鉄分補給とビネガーの知恵】
ギリシャでは、ファケスを食べる際に必ず「ビネガー(酢)」を垂らします。これは味のアクセントになるだけでなく、レンズ豆に含まれる鉄分の吸収を助けるという栄養学的な理にかなった習慣です。古代ギリシャの哲学者ゼノンもレンズ豆のスープを愛食していたと言われており、歴史の深さを感じる一杯です。
黄金色の癒やし:コトスパ

チキンの出汁が効いたスープをコトスパ (Kotosoupa) と呼びます。野菜は全く入らず、出汁に卵とレモンを加えて攪拌させて作ります。説明が難しいけど、とにかく美味しいので食べてみて下さい。
【アヴゴレモノの技術】
このスープの核となるのは「アヴゴレモノ(Avgolemono / 卵レモン)」ソースです。熱いスープに卵を入れる際、かき玉汁のように固まらせてはいけません。別のボウルで卵とレモンを攪拌し、そこに少しずつ熱いスープを加えて温度を慣らしてから鍋に戻す「テンパリング」という技法が必要です。これにより、クリームを使っていないのに、シルクのように滑らかでクリーミーなスープが完成します。ギリシャでは風邪をひいた時に食べる「ペニシリン・スープ」としても親しまれています。
復活祭の儀式:マギリッツァ

羊の臓物で作る伝統的なスープがマギリッツァ (Magiritsa) です。イースターの日曜日に必ず登場するスープ。エンダイブとディルが味の決め手です。(μαγειρίτσα)
【断食明けの胃腸薬】
ギリシャ正教の厳格な40日間の断食(肉や乳製品を絶つ)が明ける、復活祭の深夜0時のミサの後に最初に口にするのがこのスープです。翌日の復活祭当日に行われる羊の丸焼きのご馳走に備え、弱った胃腸を慣らすために、内臓(レバーや腸)と大量のレタスやハーブを使って消化良く作られています。独特の風味がありますが、ギリシャ文化を理解する上で欠かせない祝祭の味です。
二日酔いの特効薬:パツァス
パツァス (Patsas)は二日酔いに良く効く魔法のスープ。羊の足、臓物などが入っています。ギリシャ人は飲み過ぎた後は絶対にこのスープを飲みます。崇拝にも近い絶対的な信頼を寄せているスープ。
【労働者階級の朝食から夜遊びの締めへ】
テッサロニキが発祥とされるパツァスは、もともと早朝から働く肉体労働者のための高カロリーな朝食でした。現在では、クラブやバーで夜遊びした後の「締めの一杯」としての地位を確立しています。ニンニクとビネガー(スコルドスゥービ)を大量に入れて味を調整し、唐辛子(ブコヴォ)を振って食べるのが通のスタイル。専門店(パツァジディコ)は24時間営業していることが多いです。
ギリシャの甘美な誘惑:デザート
白い貴婦人:アミグダロータ
ミクノス島の伝統的な焼き菓子がアミグダロータ (Amygdalota)。アーモンドの粉を使うのでグルテンフリーです。でも人によって小麦粉と半々で作るので、アレルギーの方は確認が必要。レモンまたはオレンジジュースが入って爽やかな味。ギリシャでは珍しく甘いけれど食べれなくはない甘さです。
【島の祝菓子】
ミコノス島だけでなく、イドラ島やアンドロス島など、アーモンドの産地である島々で作られる銘菓です。外はカリッと、中はしっとりとした食感が特徴。その真っ白な見た目から、結婚式や洗礼式などの祝い事に欠かせないお菓子とされています。特にミコノス島のものは、バラ水(ローズウォーター)で香り付けされることが多く、優雅な香りが漂います。
33層の伝説:バクラヴァ

アーモンドやピスタチオなどのナッツ類で作る餡を、幾重ものパイ生地で包んで焼いた後に極甘のシロップ漬けにする、何とも残念なお菓子がバクラヴァ (Baklava) です。シロップにさえ漬けなければ、メチャクチャ美味しいと思います。
濃くて苦いギリシャのコーヒーと一緒に食べれば案外いけるのかも、と思いきやギリシャ人はコーヒーにも砂糖を沢山入れてバクラバを食べます。シロップさえなければ本当に好みの味なので、シロップが憎い。
【キリストの年と同じ層】
伝統的なギリシャのバクラヴァは、キリストが生きた年数に合わせて「33枚」のフィロ生地を重ねて作ると言われています。甘すぎるのですが、このシロップこそが保存性を高め、数日間かけて味が馴染む熟成の役割を果たしています。最近では甘さを控えめにし、ダークチョコレートやドライフルーツを使ったモダンなバクラヴァも登場しており、2026年のパティスリー界で新たな進化を遂げています。
北の都の朝の顔:ブガツァ
ギリシャ風のカスタードのパイがブガツァ (Bougasta) です。他のお菓子に比べたら甘さ控え目ですが十分過ぎるほどに甘いです。シナモンとシュガーパウダーがトッピングされるので更に甘くなります。朝ごはんにこれを食べるギリシャ人率が高い。
【セレスとテッサロニキの戦い】
ブガツァの発祥は北ギリシャのセレス(Serres)地方とされ、テッサロニキで花開きました。これら北部の都市ではブガツァ専門店が無数にあります。重要なのは、ブガツァには甘いクリーム(Krema)だけでなく、チーズ(Tyri)、ひき肉(Kimas)、ほうれん草(Spanaki)を入れた「塩っぱいバージョン」も存在するということです。特に「カカオミルク」と一緒に食べるのがテッサロニキっ子の定番スタイルです。
至高のセモリナ・カスタード:ガラクトブレコ
ギリシャ風カスタードパイに、レモンやオレンジなどの柑橘系のシロップをかけたデザートがガラクトブレコ (Galaktoboureko) 。ただでさえ甘いカスタードパイが、シロップにより更に激甘になります。
【焼き立てか、冷やしてか】
「ガラ」は牛乳、「ブレコ」はトルコ語由来でパイを意味します。セモリナ粉を使って炊き上げたカスタードは、普通のカスタードよりも粒子感があり、しっかりとした弾力があります。焼き立てのパリパリした熱々を食べる派と、冷蔵庫で冷やしてしっとりしたものを食べる派でギリシャ人の中でも好みが分かれますが、シロップの柑橘の香りが立つのは常温から少し冷えた頃です。
アラブの遺産:ハルヴァ
卵もバターも入らないセモリナ粉で作るプディングをハルヴァ (Halva) と呼びます。アラブが起源でゴマのペースト、チーズなども入ります。手作りのハルヴァはういろうみたいな食感で美味しいのですが、市販のやつは硬くてそんなに美味しくなかったです。
【1:2:3:4の法則】
記事中で言及されている「セモリナ粉のプディング」タイプは、「ハルヴァ・シミリグダレンィオス(Halvas Simigdalenios)」と呼ばれます。これは家庭で簡単に作れるお菓子で、「オイル1:セモリナ2:砂糖3:水4」という黄金比率(1-2-3-4の法則)が有名です。一方、ゴマのペーストで作る硬いブロック状のものは「マケドニアン・ハルヴァ」と呼ばれ、主に店で購入するものです。こちらは栄養価が高く、断食期間中の貴重なエネルギー源として親しまれています。
天使の髪の毛:カタイフィ
カタイフィ (Kataifi) と呼ばれる細い麺状の生地で、ナッツ類やクリームを巻いて焼き上げる伝統菓子。パリパリとして香ばしいのに、焼いた後で何故かシロップに漬けられてしまう、イスラム圏でお馴染み形式の物凄く甘いお菓子。シロップに漬ける前に売って欲しい。
【食感の妙】
この細い生地は「天使の髪」とも呼ばれます。空気を含んで焼き上がるため、フィロ生地のバクラヴァよりも軽やかな食感が特徴です。シロップに浸かっているのに、良いお店のものは不思議とサクサク感が残っています。近年では、このカタイフィ生地をデザートではなく、エビに巻いて揚げたり、チーズを包んで前菜にする料理(Savoury Kataifi)も、モダン・タベルナで人気を博しています。
古代オリンピックの勝者の味:ギリシャ風揚げドーナツ

揚げドーナツを甘いシロップに漬け込んだ極甘のお菓子が、ルクマデス (Loukoumades) 。何もそこまで甘くしなくても・・・と辟易する甘いです。慣れれば美味しいんだろうけれど慣れたくない。ギリシャ人は朝ごはんとして食べます。
【最古のデザートの一つ】
ルクマデスは記録に残る限り、ギリシャ最古のデザートの一つかもしれません。紀元前776年の第1回オリンピックで、勝者に「蜂蜜の揚げ菓子」が振る舞われたという記録があります。現代ではシロップ漬けだけでなく、チョコレートソースをかけたり、砕いたピスタチオやアイスクリームをトッピングしたりと、若者向けにカスタマイズできるルクマデス専門店が行列を作っています。
ベリア名物:REVANI
ココナッツ&レモン風味のスポンジ菓子。もちろん極甘のシロップに浸されるので、どうしたらいいか分からないほど甘いです。小麦粉ではなくセモリナ粉を使うのが特徴。
【ベリアのレヴァニ】
レヴァニ(Revani / Ravani)は北ギリシャのベリア(Veria)という街が発祥の地として特に有名です。セモリナ粉を使うことで、通常のスポンジケーキよりも粒感があり、シロップをたっぷりと吸い込んでも形が崩れません。現地では、この甘いケーキに、砂糖を入れない濃厚なカイマキ・アイスクリーム(Kaimaki / マスティハの入った伸びるアイス)を添えてバランスを取るのが通の食べ方です。
ギリシャの魂を潤す飲み物
白濁する魔法の酒:ウーゾ
ギリシャ人の家庭にお呼ばれすると、必ず振舞われるのがウーゾ (Ouzo) 。ブドウが原料の、アルコール度数が40度近くあるリコールです。水を加えると白濁する珍しいお酒です。ギリシャ人が愛して止まないお酒。
【レスボス島プロマリの聖地】
ウーゾは、ブドウの搾りかすから作られた蒸留酒にアニス(八角)などのハーブで香り付けしたものです。特にレスボス島のプロマリ(Plomari)地区は、最高品質のウーゾの産地として世界的に有名です。水を加えると白濁するのは「ウーゾ効果」と呼ばれる科学現象(アニスオイルが水に溶けないため)です。ギリシャでは、ウーゾは単独で飲むものではなく、必ず塩気のあるメゼ(タコ、チーズ、オリーブ)と共に、ちびちびと時間をかけて楽しむ「スローライフ」の象徴です。
伝統の儀式:ギリシャ風コーヒー

ギリシャで一般的にコーヒー (Ellinikos) と言えば、旧オスマン帝国の国々に共通した煮出し式コーヒーの事です。とても濃いのですが、クセになる味。日頃ブラックコーヒー派の私も、砂糖抜きでは飲めない苦さで、煮出し式コーヒーに関しては思いっきり甘くして飲むのが正解です。
【ブリキとカイマキ】
専用の小鍋「ブリキ(Briki)」で、粉と水と砂糖を一緒に煮出します。表面にできる泡「カイマキ(Kaimaki)」が消えないように注ぐのが職人技です。飲み終わった後のカップの底に残った粉の模様で運勢を占う「カフェマンティア(Tasseography)」は、ギリシャのお婆ちゃんたちが得意とする伝統的な遊びです。最後まで飲み干さず、粉を残すのがマナーですのでご注意を。
偶然の発明品:フラッペ
ギリシャで夏になると良く飲まれるのがFrappeと呼ばれるアイスコーヒー。味はそのままインスタントコーヒーですが、暑い夏には最高です。何も言わないと大量の砂糖を入れられてしまうので、砂糖控えめでオーダーしましょう。しょせんはただのインスタントコーヒーなので、過剰な期待はしてはいけません。
【テッサロニキ国際見本市での誕生】
フラッペは1957年、テッサロニキ国際見本市でネスレの社員が、お湯が手に入らなかったためにシェイカーで水とインスタントコーヒーを振ったことから偶然生まれました。現在では、エスプレッソを使った「フレッド・エスプレッソ(Freddo Espresso)」や「フレッド・カプチーノ」の方が若者の主流になりつつありますが、フラッペはギリシャの現代カフェ文化の始祖として、今なお愛され続けています。
古代からの伝統:レツィーナワイン
ギリシャ北部名産の、独特な不思議な味がするワインがRetsina。松脂で味付けした白ワインです。私的には許せない味ですが、一度は試してみるべき。ギリシアとワインの歴史はとても古く、世界最古のワインの称号を巡って周辺各国と争っています。
【松脂の理由と現代の進化】
古代、ワインの酸化を防ぐためにアンフォラ(壺)の蓋を松脂で密閉していたことから、ワインに松の香りが移ったのが始まりです。かつては「安酒」の代名詞でしたが、2026年の現在、意欲的な醸造家たちによって「高品質なレツィーナ」が作られています。「ティア・リラ(Tear of the Pine)」などの銘柄は国際的な賞を受賞しており、ハーブの香りがするクラフト・レツィーナとして、世界のソムリエから再評価されています。昔のイメージで敬遠せず、ぜひ最新のレツィーナを試してみてください。
結び:ギリシャ料理とは何なのか
ギリシャ料理を含む地中海食は、ユネスコの無形文化遺産に登録されています。料理だけでなく、食のスタイル、食文化をも含む総合的な地中海ダイエットに関するあれこれは、別記事で詳しくまとめてあります。

ギリシャ料理の本質は、「フィロティモ(Filotimo)」という言葉に集約されます。直訳は難しいですが、「名誉」や「誇り」、そして「他者への献身」を含む概念です。
新鮮な食材への敬意、客人を最高のもてなしで迎える誇り。ギリシャのタベルナで食事をすることは、単に栄養を摂取することではなく、数千年の歴史と哲学を味わうことです。2026年の今も変わらぬ、この温かく情熱的な食卓へ、ぜひ旅立ってください。



コメント
[…] 世界食べ尽くしの旅 2019-04-22 17:17:29美味しいギリシャ料理50選 おすす… […]
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